編集部の気ままにインプレッション「1本針で世界は変革できるのか? マイスタージンガー」

2019.08.15

このムーブメントのパフォーマンスは素晴らしい

キャリバーMSA01
キャリバーMSA01
大型の香箱をふたつ直列配置する、いわゆる〝ツインバレル〟。受けのサーキュレーグレイン仕上げが搭載するモデル名の由来。エッジの面取りも実にていねいに行われている。なお、自動巻き機構をオミットした手巻きのキャリバーMSH01もあり、こちらを搭載したモデルは自動巻きモデルに比べて厚みが1㎜薄くなる。

 ちゃんと時針、分針がある〝しごく真っ当な〟時計に比べると、どうしても正確な時刻の読み取りには苦労する、その苦労をスマホなどで補完してもらいながら、分刻みのスケジュールが入っていないオフタイムにこの時計を使ってもらいたいと述べた。

 しかし、1本針とは実に不思議で、毎日使いながら、時刻の確認作業を必要以上に増やしてみると、「禁断の5分間」の位置関係がなんとなく感覚的に分かってくる。「この針の位置なら、今は17分あたり」とか、相変わらずアバウトではありながらも、±1分くらいまでの誤差で現在時刻が読み取れるようになってくるのだ。

 時刻表示を勝手に〝制覇〟したと考えたわたしは、この時計の大きなハイライトである、自社製の自動巻きムーブメントに目を向けてみることにした。自動巻きキャリバーMSA01である。自社製と謳っているが、正確にいうとスイスのビール・ビエンヌにあるサプライヤーと共同開発したムーブメントであり、マイスタージンガーに独占使用権がある。

 このムーブメントが個性的で実に素晴らしい。まずサイズは大型の14 1/2ライン。懐中時計並みのサイズだ。ここに大きな香箱を直列でふたつ配し、約5日間のロングパワーリザーブを確保していると同時に、精度の安定性にも大いに貢献している。並列配置されているこの大型香箱がいつでも眺められるのはこのムーブメントの美点である。ブリッジは美しいサーキュラーグレイン(circular graining)仕上げ。ちなみにモデル名の「シルキュラリス」はサーキュラーのフランス語読みである。筋目仕上げが施されたローターは巻き上げ効率に優れるタングステン製。テンプは高品質のグリシデュール製で、ブリッジの鏡面仕上げによる面取りも実にていねいな仕事。

4つのラグの末端と裏蓋をまたぐように打たれたビスに注目。大型ムーブメントをトランスパレントバックからより美しく見せるためのアイデアである。ケースにスペーサーの必要もなく〝ぎっしり〟凝縮したように収められた姿は感動ものだ。
マイスタージンガー シルキュラリス オートマティック

マイスタージンガー シルキュラリス オートマティック
自動巻き(Cal.MSA01)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SS(直径43㎜、厚さ13.5㎜)。デイト表示付き。5気圧防水。62万円(税別)。

 この大型で優れたムーブメントを43㎜径のケースに収めるため、ケースバックに素晴らしい工夫が凝らされている。裏蓋の4つのビスが、4本のラグの末端をまたぐように打たれているのだ。裏蓋へ直接ビスを穿ったならば、数㎜のアップサイジングは避けられなかっただろう。結果として、ケース一杯にジャストサイズのムーブメントが組み込まれたわけだ。トランスパレントバックはこうでなきゃ、と思わず喝采したくなる工夫ではないか。

 もちろん、メカ時計の定めとして、前々回のモンブラン同様、この時計もウィッチ君に乗ってもらった。水平姿勢で振り角は約290度、垂直姿勢で約270度と上々。ビートエラーもほとんどない。理論上は設計者の思惑通り、かなりの高精度が期待できる数値だ。でも、この時計、秒針もないので、そのハイプレシジョンぶりが使っていてもいまひとつよくわからない! 原子時計のミニマリズムを追求するマイスタージンガーを使うユーザーは、こんな場面にちょくちょく遭遇し、それ以上の得るものに、おそらくは日夜気づかされるのではないだろうか。

 

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