時計業界で熱視線を集めるレイモンド ウェイルの「ミレジム」コレクション。突如登場したミレジム人気の理由を知りたい読者も多いはずだ。そう、人気を集めるからにはそれ相応の秘密があるのだ。『ウォッチタイム』アメリカ版に携わるライター・編集者のマーティン・グリーンが、デザイン的な視点から、その秘密を解き明かす。
人気の秘密は計算され尽くされたデザインか?
「ミレジム」は、レイモンド ウェイルにとって成功したコレクションのひとつだ。世界の腕時計コレクターの興味を引き付け、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2023においてチャレンジウォッチ賞を受賞している。現在このコレクションは、3針モデル、クロノグラフ搭載モデル、そして今回私が注目する魅力的過ぎるムーンフェイズ機能搭載モデルで構成されている。

自動巻き(Cal.RW4280)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ10.05mm)。50m防水。39万6000円(税込み)。
ヴィンテージ感がありつつも現代的なプロポーション
ミレジムの成功に大きく貢献している点はふたつ挙げられる。ひとつは、個人的に完璧なプロポーションを構成しているところにある。39.5mmの直径は、この腕時計の特徴的なムーンフェイズに実にぴったりなサイズ感だ。
39.5mmの直径、そして10.05mという厚さも相まって、本作のプロポーションは、ヴィンテージな雰囲気がしつつも現代的なプロポーションを実現した。これは文字盤にも言えることだ。部分部分によって、ほんのわずかに高さの違うセクター文字盤がそれを可能としたのである。
デザインの成功は「2本のライン」が鍵
もうひとつの成功への貢献、それはこの腕時計の魅力となる“秘密兵器”だ。それは分目盛りとインデックス、そして文字盤の中央を分ける、2本のサークル状のラインだ。もしこの溝でデザイン的に整理していなければ、中央に向かって混み合った印象を、文字盤からは覚えてしまうに違いない。それを軽減した工夫なのだ。仮に時刻を確認しようと文字盤を見るとしよう。この工夫のおかげで、視線はおのずと文字盤の中央に引き込まれる。そのために視認性もしっかりと確保されているのだ。
ポエティックなムーンフェイズ
ミレジムではムーンフェイズは詩的な表示機構として採用されている。ムーンフェイズ搭載モデルといえば、日付表示や月表示といった他のカレンダー機構と組み合わされることが多い。だがこの腕時計の場合はそうではない。そのため、どこかポエティックな雰囲気があり、月の表情がそれを物語っているのだ。すなわち、写実的な月ではなく、親しみやすい“顔”の描かれた月なのである。ムーンフェイズディスク上の点在する星と合わせて、見るものを楽しませてくれる。
このムーンフェイズは、ブルーの色合いの文字盤にとてもよく似合っている。というのも、ムーンフェイズディスクの背景はブルー寄りのグレーで彩られており、全体のデザインに見事に溶け込んでいるからだ。
高級感にあふれ洗練された印象を覚えるケース
ケースにはピンクゴールドのPVDコーティングを採用することで、ミレジム オートマティック ムーンフェイズは、実際のゴールド製品のような高級感をまといながらも、価格を抑えることに成功している。ヘアラインとサテンという異なる仕上げを使い分けることで、さらに洗練された印象と、レイモンド ウェイルらしい魅力が引き立つ仕上がりだ。
堅牢で信頼性の高いムーブメント。欲を言えば……
裏蓋はトランスパレント仕様のため、搭載されたムーブメントCal.Rw4280の姿を覗くことができる。このムーブメントは、セリタのCal. SW280-1をベースに、特別なローターを組み合わせたものだ。ムーブメントは堅牢で信頼性が高い。だが、文字盤側のエレガントさに合うように、もう少し装飾が施されていれば、より魅力的になっただろう。正直、惜しいポイントだ。
クワイエットなセンスのストラップは大正解
また、レイモンド ウェイルがストラップ選びにおいて見せた、控えめなセンスも称賛したい。ワニ革風の型押しレザーストラップが定番の選択肢だったかもしれないが、あえてネイビーブルーのカーフストラップを選び、ほんのりとしたシボ(シワ模様)を加えている。これにより控えめなエレガンスがプラスされ、時計そのものがいっそう際立つ仕上がりとなった。さらに、バックルにもピンクゴールドのPVDコーティングが施されており、この時計にしっくりと馴染んでいる。
レイモンド ウェイルは、今回レビューした「ミレジム オートマティック ムーンフェイズ」にシルバー文字盤のバリエーションや、ひと回り小さい直径35mmのモデルも用意している。本記事で紹介しているモデルの価格は39万6000円だ。