GSブランドイノベーションの勝算
早稲田大学ビジネススクールでラグジュアリー戦略を教える長沢伸也教授と、大阪大学大学院で経営史を教えるピエール=イヴ・ドンゼ教授。
日本を代表するブランドビジネスの専門家と、時計産業に対する世界屈指の論客だ。
そんなふたりの論客は、今年、ブランドとして独立を果たしたグランドセイコーのブランドイノベーションをどう見たのか?
グランドセイコーのリブランドを象徴する新作が、ファーストモデルのデザイン復刻版だ。ケースサイズは拡大したが、造形はほぼ同じ。オリジナルは金張り仕様だが、復刻版は18Kイエローゴールドケースを美しく磨き上げている。手巻き(Cal.9S64)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYG(直径38mm)。3気圧防水。世界限定353本。180万円。
1960年12月18日に発売された、グランドセイコーのファーストモデル。高度なチューニングと選別された部品により、BOクロノメーター規格(優秀級)と同等の精度を誇った。なお、ケースは80ミクロンの14金張り仕様。当時の小売価格は2万5000円。ほかにもPtケースのモデルがごく少数販売された(当時の価格は14万円)。
広田雅将(以降H):今年、グランドセイコーが独立し、海外進出を本格化させます。日本メーカーでは珍しいこの試みを、おふたりはどう感じましたか?
長沢教授(以降N):グランドセイコーはプレミアムブランドになりましたが、ラグジュアリー化はこれからでしょう。ラグジュアリーになり得るメイド・イン・ジャパンはレクサスとグランドセイコーだと思っています。ただし、ラグジュアリー化とグローバル化は分けて考えなければなりません。
H:それでは、ラグジュアリー化からお聞かせください。
ドンゼ教授(以降D):バーゼルワールドでの服部真二会長のスピーチを聞きましたが、ブランドとして考えるなら、より大事なのは、技術ではなくイメージですね。グランドセイコーにはすでに技術があるわけですから。
N:今年から、ロゴが12時位置に移りますが、これはブランドのアイコンを具体化させたということですね。しかし、これだけではブランドにならない。ブランドとして打ち出すべきは、歴史やストーリーですね。
D:日本の製造業がブランドになるにはふたつ課題があります。ひとつはガバナンス。ラグジュアリーの世界では、マーケティング部門が主導してエンジニアにプロダクトを作らせますが、日本では技術ありきでプロダクトが開発されることが多いですね。もうひとつは投資。ブランドイメージをつくるにはいっそうのコミュニケーションが不可欠です。日本人は安価で優れたものを作りますが、それだけではブランドにはならないのです。
N:そのためにはコストを度外視したフラッグシップが増えてもいいですね。グランドセイコーも、プラチナケースのエイトデイズのような、今までにないモデルをもっと作るといいのではないでしょうか。
H:プラチナケースのモデル、確かにイメージを変えるには効果的でしたね。