Grand Seikoの独立ブランド化 / グランドセイコー 新世界戦略発動

2017.08.09

今回で3回目となるファーストモデルのデザイン復刻。しかし、普通のセイコーとは一線を画した高級時計という意図を再現すべく、その純度はいっそう高まった。一例が6時位置の「スペシャルダイヤルマーク」。ファーストモデルが採用した18Kゴールド製のインデックスが18KゴールドとPtモデルに復活。それに伴い、「スペシャルダイヤルマーク」も再現された。

D:販売網の見直しも重要でしょう。オメガは2000年頃に流通システムを再編成することでブランドイメージを変えることに成功しました。

N:セイコーも銀座と大阪にプレミアムブティックを作りましたね。ラグジュアリーに取り組むには、フラッグシップストアの拡充は必要でしょう。コストと思わず、将来を見据えて投資して欲しい。それと重要なのは歴史の見直しですね。日本の製造業は歴史を忘れがちですが、歴史とは資源なんですよね。活かさないのはもったいない。

D:同感です。歴史は資源だから、人やモノ、お金と同じく、経営しなければなりません。ただ、歴史とストーリーテリングは似ているようで違う。大事なのは、歴史からストーリーをつくることですね。スイスの時計専門家はグランドセイコーを高く評価しますが、イメージがないと普通の人は手に取りにくいでしょう。そのためにはストーリーが不可欠です。その点、スイスのブランドはうまいですね。

H:初代モデルの復刻は、歴史とストーリーを謳うには最適だったと思います。海外に負けない高級で高精度な時計を、しかも1960年に作っていた。おふたりは、何がグランドセイコーにとってのストーリーになると思いますか?

N:グランドセイコーの場合、マニュファクチュールであること、人を絡めたストーリーは訴求できるでしょうね。

D:グランドセイコーのストーリーとなるコアDNAは精度でしょう。セイコーはクォーツウォッチを作る前から競争力があり、スイスの天文台コンクールでほぼ勝ちました。それは、現代にも受け継がれており、世界にアピールできるはずです。

早稲田大学大学院の長沢伸也教授(左)と大阪大学大学院のピエール=イヴ・ドンゼ教授(右)。ラグジュアリーとウォッチビジネスに精通するふたりは現在のグランドセイコーをこう評する。「エグゼクティブなビジネスマンが使う時計」(長沢氏)、「量産機械式腕時計ではスイスの関係者も褒めるほど高品質」(ドンゼ氏)。

N:ゼニスが毎秒10振動のエル・プリメロを作ったのは1969年ですが、グランドセイコーは68年にすでに毎秒10振動モデルを発売していました。グランドセイコーで毎秒10振動をもっと謳うのは価値がありそうです。高精度の象徴ですしね。

H:では、ブランドのグローバル化をどうお考えですか? 個人的には、グローバル視点での商品戦略やコミュニケーション戦略など、グランドセイコーは変わりつつあると思います。

N:冒頭で、ラグジュアリーとグローバルは違うと話しましたが、ラグジュアリーに関して言うとほぼ同義語でしょう。というのも、グローバル化していないブランドはラグジュアリーとは言いませんから。そのためには世界統一価格、統一した製品、そして統一されたイメージが必要です。各国バラバラの基準でやっている限り、統一したイメージはつくれませんよね。

D:そう、日本人は誤解しているし、分けたがるけれど、日本はグローバル市場の一部なのです。だから統一基準は必要になります。

H:確かに、日本でしか買えないグランドセイコーはまだ多いですね。だから海外のコレクターたちは、わざわざ日本に買いに来ます。それが解消されると、いっそうグローバルブランドになるということですね。

N:日本のメーカーは今、統一化とグローバル化に取り組んでいる最中ですね。グローバルブランドを目指すのはまさにこれからですし、グランドセイコーにはその先駆けになってくれれば、と思っています。改めて言いますが、レクサスとグランドセイコーは、日本のラグジュアリーブランドになって欲しいですし、最も可能性のあるブランドですからね。