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そこで、「アコースティック・ラボ」を開設し、1875年の創業から途切れることなく続くアーカイブや、ミュージアム収蔵品をひもとき、音の大きさ、音質、時計としての実用性の観点から、最適な音の手本を3つにまで絞り込んだ。その中でも、最も音色が評価されたのが、1924年に製造されたキャリバー11SMV#5を搭載したジャンピングアワー・ミニッツリピーターであった。この音色を指針として、スイス連邦工科大学ローザンヌ校で音響学を専攻していたエンジニアが中心となって、最適な音の解析と再現が行われた。決して伝統的な開発手法に拘泥しないのが前述した通り、オーデマ ピゲの二面性の利点だ。
「音質の次は、いかに音を響かせるかということが主題となりました」。カヴァリエールはその要諦を次のように解説する。
「スーパーソヌリが大きな音を奏でられるのは、アコースティックギターの原理を応用し、ギターのように空洞を設けて音を響かせているからです」
下のケース構造の展開図を見れば分かるが、音の振動を外部へ逃がすための開口部を設けた裏蓋の内側に、音響盤を設け、この音響盤の内側に固定されたゴングが響いて、音を共鳴させているのだ。
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「伝統的なミニッツリピーターでは、ゴングはムーブメントの地板とケースに固定されています。したがって、ゴングがハンマーで叩かれると、地板が振動しますが、この地板には複雑なムーブメントを構成するたくさんのパーツが載っているので、実はあまり響くことができないのです」
他方、オーデマ ピゲが考案したこの音響盤のシステムでは、音響盤に固定されたゴングはケースの内側で振動するが、その振動は音響盤を介して、ケースの外側へ伝達され、さらに裏蓋との間に設けられた空洞でアコースティックギターのように増幅され、裏蓋に穿たれた開口部から外部へ拡散される。しかも、腕と音響盤は裏蓋と空洞によって隔たれているので、常に腕に触れていてもゴングが発生する振動が腕によって遮られることがない。むしろ、皮膚を反響板とすることで、身に着けている時のほうがより音が響くというプラス面の効果も期待できる。
さらに、このシステムの利点は、音響盤の内側でゴングが振動することで、時計に防水性を与えられることだ。つまり、音響盤とケースの間にパッキンを入れることで、防水性を持たせながら、ゴングの振動は音響盤を介して外部へ伝達する。これは、ほとんどのミニッツリピーターが音を外部へ伝達するために開口部を設けることで非防水にならざるを得ないというデメリットを解消する簡潔かつ優れた解決策でもある。
また、オーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピは、このスーパーソヌリが新しいだけではないことも強調する。
「オーデマ ピゲは革新性も求めますが、素材や機構に関しては伝統的なものを重視し、メンテナンスの永続性を担保することも忘れてはいません。例えば、音響盤の素材には、試行錯誤の末、最終的にチタンと銅の合金を採用しました。また、ゴングには伝統的なスティールを使っています。決して、特殊な素材は使わず、あくまでも、どの時代でも入手できる素材を使うのが私たちのポリシーです。さらに、新作のスーパーソヌリにも搭載されているミニッツリピーターのセキュリティシステムやクォーター打ちがない時のタイムギャップをなくす機構は、10年前からオーデマ ピゲがミニッツリピーターに採用しているシステムです」
目新しいだけではないジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ。そこには創業以来の歴史に裏打ちされた確固たる哲学が見て取れる。 (鈴木幸也:本誌)