『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、好き勝手に使い倒して論評する好評連載。今回のテスト機は、オリエントスターの「モダンスケルトン」。60年以上にわたって機械式時計を作り続ける同ブランドの、控えめなスケルトンウォッチだ。
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
よく腕時計好きには自動車好きが多いと言われるが、自分の感覚的にもこの説は的を射ているように思える。なぜなら周りにも時計好きのクルマ好きは多く、何を隠そう筆者もそのひとりに当たるからだ。両者を愛でる者にとって、両者が共通して持つ「琴線に触れるポイント」が何かに関しては古今東西、さまざまな指摘がなされているが、大前提にあるのはやはり機械好き、歯車好きという点だろう。ところが残念ながら自動車に関しては、自身が運転をしている最中にエンジン内部のシリンダーの動きや、トランスミッションの動作を見ることができない。
しかし腕時計ならばこれら機械好き、いや“機械萌え”や“歯車萌え”の人たちが溜め込むフラストレーションを発散することが可能だ。特にスケルトンモデルであれば、前述のような特殊性癖の持ち主にとってその欲求を存分に解消することができるだろう。
今回借りたスケルトンウォッチは60年以上にわたり機械式時計を作り続けるオリエントスターの新作だ。同ブランドのスケルトンモデルといえば、その名の通り「スケルトン」が代表的である。文字盤を大胆に肉抜きすることで、46系ムーブメントの美しさをケースの表と裏から堪能できる設計となっており、まさに“機械萌え”にとってうってつけだ。
しかし、今回インプレッション用に借りてきたのは「セミスケルトン」シリーズの「モダンスケルトン」であり、前述のスケルトンとは少し毛色が違う。文字盤に開けられた穴が4箇所のみと控えめなのだ。しっかりと測ったわけではないが、スケルトン部分が占める面積は見たところ文字盤全体の3分の1に満たないのではないだろうか。そのため冒頭で述べたようなフラストレーションの発散という観点においては、スケルトンほどの爆発力を持っていない。しかしだからこそ、一般的に派手な印象のものが多いスケルトンウォッチの中で、モダンスケルトンの落ち着きのある佇まいはかえって目を引くのではないか。
また、スケルトンウォッチの多くは時刻を確認する際に時分針とインデックス以外の目に入ってくる情報量が多いため、視認性という観点においてはあまり優れていない。しかし、この弱点は文字盤の限られた場所のみが肉抜きされている本作においては該当しない。確かにテンプ周りに針が重なる時などは少し見づらい気もするが、おおむね視認性は良好だ。
と、ここまで散々この時計が“派手ではない”ことを強調してきたが、決して「モダンスケルトン」が地味なモデルだと思ってはいけない。パワーリザーブインジケーターと風防のパッキン、2カ所に使われるメタリックブルーはスポーティな印象をうまく演出している。また色に関して言うと(写真では分かりづらく恐縮だが)、文字盤は光沢のある深いブラックとなっているのだが、光の当たり方で青々しく映ったり、漆黒のように見えたりするのがなかなかに乙だ。9時位置からはしっかりとテンプの動きを常時見ることができ、機械好きの欲求不満も満たしてくれる。
また、この価格帯でパワーリザーブインジケーターを載せていることも特筆すべき点だと言える。アンダー10万円というプライスで購入できることを考えれば、機械式時計の入り口として購入するであろうユーザーは少なくないはずだ。ならばゼンマイの巻き上げ量が一目で分かるこの機構は頼もしいに違いない。
モダンスケルトンは3針+パワーリザーブインジケーターを持つベーシックな時計に過ぎない、という人もいるだろう。特にスケルトンウォッチの持つ派手さを好み、ムーブメント全体を文字盤側からも見たいという人にとっては物足りなさを感じるかもしれない。しかし、セミスケルトン文字盤は視認性を阻害することなく、我々にムーブメントの心臓部の動きを見せてくれる。実用時計として使用しながらふとした瞬間に機械の持つ魅力を視覚的にも感じさせてくれる。そんなモダンスケルトンが持つ奥ゆかしさは、多くの“機械萌え”の琴線に触れるはずだ。