本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第4回『Apple Watch Series 3の課題』

本田氏によれば、現状、スマートウォッチとしてファッション性を獲得することに成功した唯一のスマートウォッチがルイ・ヴィトン「タンブール ホライゾン」だ。「タンブール ムーン」のデザインコードと、ストラップや文字盤などにカスタム性を持たせることでルイ・ヴィトンらしさを巧みに表現している。「Android Wear 2.0」搭載。写真は「タンブール ホライゾン ブラック」。33万7000円〜(税別)。㉄ルイ・ヴィトン クライアントサービス➿0120-00-1854

Apple Watch Series 3に足りていないもの

 しかし、現時点でスマートウォッチとしてファッション性を獲得しているものもないことはない。その唯一と言ってもいい成功例が、ルイ・ヴィトンの「タンブール ホライゾン」だろう。しかし、この製品がファッション性を保ちながらスマートウォッチとして機能している理由は機能の枠組みをコンパクトにまとめ、完全にメーカー側で操作性、デザインともに制御しているからにほかならない。メーカー自身がスマートウォッチではなく、“コネクテッドウォッチ”と定義していることからも、その位置付けが分かろうというものだ。

 いずれはタンブール ホライゾンをはじめ、コネクテッドウォッチについても、連載で触れたいと思うが、Apple Watchが目指す“スマートフォンを身にまとう”という商品開発の方向で、ルイ・ヴィトンと同じようなファッション性を引き出すことは極めて難しいのではないか。言い換えれば、アップルがどのようにしてこの部分を克服するのか(あるいは、克服できないのか)は、個人的にも興味深いテーマだ。

 一方、ファッション性以外にもうひとつApple Watchには大きな課題がある。それは製品としての、もっと本質的な部分に関する問題だ。具体的にはApple Watchが“汎用的なコンピューター”として、多数のアプリケーションを呼び込めるだけのプラットフォームとなり得るのか? ということである。時計専門誌のウェブサイトで取り上げる話としては少々難しいテーマかもしれないが、ご容赦いただきたい。

 現状、スマートフォン向けに無数のアプリが毎日公開され、そこから新たな応用分野やエンターテインメントの発見を我々は得られる。その理由は何かといえば、“規模の経済”が機能しているからにほかならない。

 iPhoneが大成功した理由は、それ自身が当時画期的で、アプリを開発するエンジニアたちの興味を引きつけたから。そして斬新なそのユーザーインターフェイス、つまりパソコンからのアクセスが主流だったインターネットサービスを指先ひとつで操れることが消費者目線で評価されたからである。

 結果、急速にiPhoneを取り巻くコミュニティーは大きくなり、iPhoneを模倣したAndroidも含めてスマートフォンというジャンルが確立された。

 今日、多数のアプリがスマートフォン向けに発表され続け、新たなジャンル開拓に加えて“進化”と“深化”を重ねているのは、規模の大きさがアプリ市場を拡大してきたからだ。言葉は悪いかもしれないが、“儲けられる可能性”が高いからこそ、そこに投資が集まる。

 しかし、世界で最も売れていると思われるスマートウォッチであるApple Watchをもってしても、アプリ市場において“ここに投資すべき”と皆を納得させるだけのスケールを現状打ち出せているとは言えない。アップルは世界中のアプリ開発者たちを味方に付けようとしているが、まだまだApple Watchを本当の意味で活かしたアプリは数少ない。

 その理由を端的に言うならば、ビジネスとしての規模が大きくならないからだろう。