ルイ・ヴィトンの新たな挑戦。「タンブール」の加工困難なプラチナ、オニキスを用いた新作

2025.02.25

ルイ・ヴィトンの「タンブール」に新たなリミテッドエディションが登場した。ひとつはブラックオニキスを文字盤に用いたモデル。もうひとつはケースにプラチナを用いたモデルだ。どちらもタンブールに初めて採用される素材であり、その加工は難しいが、見事なサヴォア・フェールを実現したモデルである。

タンブール新作


「タンブール」の「特別な」リミテッドモデル

 他の腕時計と一線を画す美学、職人技が注ぎ込まれたタイムピース、「タンブール」。そのドラム型をしたアイコニックな存在はルイ・ヴィトンの時計製造を世に知らしめ、そして確立させた腕時計と呼んでもよいだろう。タンブールは2002年に誕生し、2022年にはアニバーサーリーエディションが登場した。

文字盤に漆黒の宝石、オニキスを採用したモデル。オニキスは割れやすい素材であり、その加工には熟練の技術が必要となる。文字盤はオニキスを何枚も集めて構成されたものだ。

 ラグジュアリー・スポーツの流行を受けてか、タンブールのシルエットをよりスリムに刷新し、ブレスレットはケースによりマッチした一体型へと変更された。高級感がありつつもカジュアルな雰囲気を醸し出す、当時のタンブールは万人に向けられた腕時計と言ってもよいだろう。

ケースにプラチナを採用した「タンブール オトマティック プラチナ レインボー」。プラチナは加工がしづらい素材でありながらも、このモデルではヘアライン仕上げやポリッシュ仕上げなどのさまざまな装飾が施されている。

 タンブールを特徴付ける樽を思わせる曲線を採用したケース、「LOUIS VUITTON」の刻印が施された、サンドブラスト加工のベゼルはそのままだ。なお、搭載されるムーブメントは専業メーカー、ル・セルクル・デ・オルロジェと共同で設計したものである。

 この優美なフォルムのタンブールに、宝石を搭載したふたつのモデルが加わった。ひとつは黒く、そしてまばゆく反射するオニキスの文字盤に、サフランカラーのサファイアをあしらった、イエローゴールド製ケースを採用したタンブールである。

 もうひとつは、マルチカラーのサファイアとルビーをあしらった、プラチナ製のタンブールだ。いずれもの腕時計に用いられる宝石は、高度なジェムセッティングとカッティングが用いられたハイエンドなものである。どちらのモデルも、時計製造の時代の潮流を反映したうえに、数々のサヴォア・フェールが組み合わされた逸品だ。


タンブール オトマティック イエローゴールド オニキス

 漆黒の光沢を浮かべる宝石、オニキス。18Kイエローゴールド製のケースと組み合わせることで、明瞭かつ高級感あふれるコントラストが実現した。文字盤上に配されたサフランカラーのサファイアは、見る者の目を留めるに違いない。

ルイ・ヴィトン「タンブール オトマティック イエローゴールド オニキス」Ref.W1YG20
自動巻き(Cal.LFT023.01)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ptケース(直径40mm、厚さ8.30mm)。50m防水。限定30本。1771万円(税込み)

 ブラックアゲートの1種であるブラジル産オニキスの文字盤は、いくつかのパーツを組み合わせて作られたものだ。にもかかわらず、シームレスな反射面を描くのである。オニキスの原石から削り出し、文字盤に適した薄い層を製作するのは並大抵のことではない。寸分の狂いも許されないからだ。また、オニキスに穴を開け、アワーインデックスをはめ込む工程は、オニキスに傷を付けないように細心の注意を払う必要がある。なお、オニキスはタンブールでは初めて採用された素材だ。

オニキスで構成された文字盤の上に、サフランカラーのバゲットカットされたサファイアが丁寧に配置されている。

 アワーインデックスの役割を果たすのはバゲットカットされた、サフランカラーのサファイアだ。このサファイアとオニキスは見事なコントラストを構成している。なお、サフランカラーが選ばれたのは偶然ではない。1911年にルイ・ヴィトンが発表したヴィトニット・キャン バスのトランクから、この色の着想を得たのである。使用されているサファイアの総数は48個だ。インデックスとして用いられるものに加えて、ベゼルの下にもセッティングされているからである。文字盤の深みのあるブラックと相まって、そのまばゆい光のとりこになることだろう。

ブラックオニキスの反射する文字盤。ベゼルに埋め込まれたサファイアの、ほのかなかがやきに注目しよう。

 ブレスレットは大きなコマに縦方向のヘアライン仕上げが施され、小さなコマはポリッシュで仕上げられている。ケースのヘライン仕上げは横方向のため、ここでリズムが生まれているのである。

ブレスレットはしっかりとヘアライン仕上げが施されたものだ。バックルは両開きバックルである。

 なお、このモデルは限定版であるため、付属するウォッチバックには「1 of 30」の刻印が施され、その 特別な価値をさりげなく示している。


タンブール オトマティック プラチナ レインボー

ルイ・ヴィトン「タンブール オトマティック プラチナ レインボー」Ref.W1PT10
自動巻き(Cal.LFT023.01)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ptケース(直径40mm、厚さ8.30mm)。50m防水。限定50本。2046万円(税込み)

 もうひとつの新作である「タンブール オトマティック プラチナ レインボー」のケースに用いられている素材は、モデル名が表すようにプラチナだ。その硬さからも宝飾業界で高く評価される素材ではあるが、それに加えて、まばゆい銀白色が多くの人を魅了するポイントだろう。このモデルの文字盤には、虹色のグラデーションを描くように、色の異なるサファイアとルビーが配されている。その印象は、モダンでクワイエットなこの腕時計に、ポップでありつつ壮麗さを与える要素として機能している。

レインボカラーのグラデーションの構成要素となるルビーとサファイア。色味が微妙に異なる数多くの宝石を選び抜き、均等な色彩のグラデーションを構成することは、容易ではない。

 プラチナもタンブールでは初めて採用された素材だ。だが、プラチナの加工は腕時計のケースとして加工するのは難しく、ゴールドに比べて30%も長く時間を掛けて加工を施す必要があるのである。また、プラチナの耐摩耗性は高い。それは傷が付きづらいというメリットでもあるのだが、裏返せば、サテン仕上げを施すためには長い時間が必要となってしまうのだ。しかしながら、ベゼル、リュウズのサテン仕上げを実現した。それに加えて面取りや、ブレスレットの小コマへのポリッシュも実現している。

組み上げる前の文字盤とベゼル。シックでありながらもポップな印象を受ける。

 文字盤上、そしてベゼルの下に配された宝石はコランダムに属するサファイアとルビーである。レインボカラーとなるように、スリランカ産、もしくはモザンビーク産のグリーン、ブルー、 バイオレット、ピンク、フューシャ、オレンジ、イエローの、総数59個にもよおぶ宝石が配された。宝石を選び抜き、見事なレインボーのグラデーションとすることは、決して容易なことではない。

オニキスを採用した「タンブール オトマティック プラチナ レインボー」と同様に、ケース側面には、横方向のヘアライン仕上げが施されており、ブレスレットには縦方向のヘアライン仕上げが施されている。ゴールドよりもはるかに硬いプラチナに装飾を施すことは、容易ではない。

 このモデルは50本限定での発売となる。なお、裏蓋には1.6mmのサフランサファイアがはめ込まれており、今後発表されるルイ・ヴィトンのプラチナを用いた腕時計も、この仕様を踏襲する予定だそうだ。


Cal.LFT023

 どちらの新作も、Cal.LFT023が搭載されている。ミシェル・ナバス とエンリコ・バルバシーニによって設立され、2011年からルイ・ヴィトンが所有するウォッチメイキングアトリエ、ラ・ファブリク・ デュ・タン ルイ・ヴィトン。Cal.LFT023はこの施設で製造されており、ムーブメント専業メーカーである、ル・セル クル・デ・オルロジェのスペシャリストたちとの協働で設計がなされた。

ルイ・ヴィトンであることを証明する、各種の文様があしらわれたCal.LFT023ムーブメント。

 Cal.LFT023はルイ・ヴィトン初の自社製3針ムーブメントだ。クロノメーター 検定機関によって、ISO3159規格準拠の認定を受け、1日 あたり−4秒から+6秒の計時精度を達成している。

 22Kピンクゴールド製のマイクロローターには、スタイリッシュなLVのモチーフがエングレービングされている。香箱の歯車はモノグラム・フラワーがあしらわれた、ルイ・ヴィトンのアイディンティを主張するものである。一方、地板にはサーキュラーグレイン仕上げが、ブリッジにはビーズブラストとポリッシュ仕上げが施され、高級ムーブメントであることを物語っている。なお、穴石に用いられる31個のサファイアが無色透明であることも、このムーブメントの特徴である。


Contact info: ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854


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