部品の加工精度が上がった結果、現在の時計用ブレスレットからは左右の無駄な遊びがなくなった。左右の遊びが小さくなった結果、高級さは増したが、遊びを小さくしすぎたために腕輪を着けているような感覚を与えるブレスレットは少なくない。対して、コード ココのブレスレットは遊びの持たせ方が絶妙だ。剛性はあるが、剛直ではないのである。外装の設計者曰く「ブレスレットの各コマの遊びは0.2㎜程度。コマが連なった時、適切な遊びになるよう調整した」とのこと。最終的なゴールを感触に置いているのは、いかにもシャネルだ。
感触に関して言うと、J12をはじめとするシャネルの時計は、実に優秀なバックルを備えている。これもG&Fシャトラン製だ。見た目は普通の3つ折れバックルだが、中にバネが内蔵されているためホールドが良く、簡単に開け閉めできる上、感触もスムーズだ。「特許は約20年前に取った。現在はシャネルの他にも提供している」とのこと。事実、いくつかの超高級メーカーの採用するバックルは、シャネルに同じだ。「私たちはシャネルの一員だが、他にも顧客を持っている。利益のためというよりも、最終的にシャネルのためになるからだ」。
完全さの追求は、外装部品を製造する工程でも同じだった。例えばJ12の裏蓋。そのサイドには浅く鏡面仕上げが施されているが、これは研削加工によるものだ。ツールを押し当てて部品を削りながら磨く研削加工。普通、この手法はケースのもっと大きな部分に使われる。しかし、シャネルでは、ステンレススティール製裏蓋の側面仕上げに使っている。「デザインのために、5~6年前から採用した」とのこと。わざわざ研削を使うほどではないが、シャネルはより完全な面を求めて、研削を採用した。
シャネルという会社は饒舌ではないが、しかし極めて誠実だ。シャネルに名声をもたらしたハイテク セラミックの製造と加工工程も見せてくれるという。工房のフロアを上がり、突き当たりまで進んだところに、ハイテク セラミックの製造・加工部門はある。