IWC “JUBILEE” REVIEW -2-

2018.07.05

ケースバックからのぞくCal.52615。1939年の第1作から、すべてのポルトギーゼは、ムーブメントありきでケースサイズを決めてきた。写真が示す通り、このムーブメントもケースいっぱいに収まっている。これが、IWCのIWCたる所以である。


 こういったポルトギーゼの在り方を端的に示すのが、コンスタントフォース付きのトゥールビヨンと表示誤差の小さなムーンフェイズ機構、そしてレトログラード式の日付表示を載せたキャリバー94805だろう。

 テンプの振り角を落とさないコンスタントフォースや、表示誤差を高めたムーンフェイズ機構は、どう小さく設計しても、スペースを取ってしまう。とりわけムーンフェイズの表示精度を高める場合、機構は途方もなく大きくなってしまう。というのも、減速させるための中間車を増やす必要があるためだ。ちなみに、腕時計サイズでも、表示誤差の少ないムーンフェイズ機構を載せたモデルはある。しかし、これらのほとんどは、精密なムーンフェイズ機構を載せるため、それ以外の機構を省いたものだった。

 対してムーブメントの大きなポルトギーゼは、ムーンフェイズの表示誤差を577.5年に1日にまで高めただけでなく、コンスタントフォースやレトログラード式の日付表示を併載することに成功した。加えて、香箱の直径を大きくした結果、約96時間という極めて長いパワーリザーブを持てたのである。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー“150イヤーズ”が搭載するCal.52615は、極めて完成度の高い永久カレンダーモジュールを載せている。基本設計は1985年のダ・ヴィンチに同じだが、直径の大きなポルトギーゼに載せるため、さまざまな改良が加えられている。なお、上図のムーブメント外周には、いくつかの突起が見える。これは表示を押さえるために強化された規制バネである。


「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 〝150 イヤーズ〟」が載せるキャリバー52615も、やはり大きなサイズの恩恵を受けている。永久カレンダーモジュールの基本設計は、1985年の「ダ・ヴィンチ パーペチュアル・カレンダー」が載せたキャリバー7906に同じだ。それ以前の永久カレンダーは、懐中時計の縮小版と言えるが、キャリバー7906の永久カレンダーは、1日に1回進むデイトリングにピンを立て、そのピンがすべてのカレンダーを切り替えるという、まったく新しい設計を持っていた。リュウズを回すだけで、すべてのカレンダーを早送りできた理由である。

 以降もIWCは、この実用性の高い永久カレンダーモジュールを毎年のように進化させてきた。「GSTパーペチュアル」に搭載する際は耐衝撃性を大幅に高め、「ポルトギーゼ・パーペチュアル」に載せる時は、より確実に作動するよう、全面的に手を入れたのである。その際の、改良ポイントはふたつ。ダ・ヴィンチやGSTでは小さかったデイトリングは、大きなポルトギーゼ用のムーブメントに合わせて拡大された。それを強固な受けで押さえ込むことで、デイトリングの挙動はいっそう安定する。加えて、各レバーを確実に戻すため、コイルバネも追加された。直径30㎜というダ・ヴィンチやGST用のムーブメントではコイルバネを加えるのは難しかったが、直径の大きなポルトギーゼのムーブメントでは問題にならなかった。加えて、大きくなった各種表示の挙動を安定させるため、規制バネの固定部はいっそう強化された。もちろん、85年の時点で、IWCの永久カレンダーモジュールは非凡な完成度を誇っていた。しかしサイズの大きなポルトギーゼ向けに改良されたモジュールは、文句なしに完成形だった。

 このモジュールを駆動するベースムーブメントの52000系も、ポルトギーゼの名に恥じないものだ。大きなサイズを生かして、香箱はキャリバー51000系のシングルから、ダブルに変更された。そしてふたつの香箱を直列につなぐことで、パワーリザーブの残量が少なくなっても、テンプの振り落ちは小さくなった。

 ちなみにムーブメントが大きくなると自動巻きへの負荷が増える。対してIWCはローター真や巻き上げ用の爪をセラミックスに変更することで、理論上はほぼ摩耗しない自動巻きを完成させた。

 今や、市場にはムーブメントとケースのサイズが合わない時計が少なくない。対してIWCは、一貫してポルトギーゼのサイズに、理由を与えようと試みてきた。正直、現代のトレンドからすると、ポルトギーゼのサイズは決して小さくない。しかし、過去のポルトギーゼがそうであったように、ポルトギーゼのサイズには、すべて意味がある。それを象徴するのが、ポルトギーゼのコンプリケーションといえるだろう。

Cal.52615
新規設計されたCal.52000系に、熟成した永久カレンダーモジュールを合わせた傑作ムーブメント。37.8mmという大きな直径は、このムーブメントにゆとりある部品配置、無類の頑強さをもたらした。個人的には、永久カレンダームーブメントの中で、最も好ましい設計のひとつである。

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