本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第8回『ウェアラブルデバイスの“腕時計化”傾向』

フィットビット「Fitbit Ionic」
独自開発のOSを搭載した、フィットビット初のスマートウォッチ。血中酸素濃度を予測する相対SpO2センサーの導入や、LEDライトを用いた光学式心拍計など、同社がアクティブトラッカーで培った技術が数多く投入されている。また、スマートウォッチとしてはスマートフォン通知や音楽再生、そして「Fitbit Pay」という電子決済機能が備わる。しかし、Fitbit Payに関しては日本未対応。本格的な国内導入が待たれる。3万6000円(税込み)。㉄フィットビット・ジャパン https://www.fitbit.com/jp/

フィットビットが見いだした活路

 以前、GfK(※編集部注)のアナリストと話したところによると、世界的な健康志向への盛り上がりを反映して、米国市場においても、カラーリングやデザイン面をファッショナブルに仕上げ、かつリーズナブルなフィットビットのデバイスは、贈る相手の健康を願う「プレゼント」として流行したそうだ。

 こうしたアクティビティトラッカーが流行した当初は、みんな面白がってその手の製品を使ったものの、集められる情報が少なければ(当初は単なる加速度センサーから得られる情報ぐらいしかなかった)大したフィードバックは行えない。その後、フィットビットの製品は世代を重ねて進化したものの、手首という“不動産的価値”が高い場所に着用するというハードルは高かった。

 そのうちにユーザーは同社の製品に飽きはじめ、新型モデルが発売されても製品を切り替えず、ホリデーシーズンに新たな贈り物として受け取っても返品や交換をするようになり(米国では贈り物が気に入らなかった場合、現金や他の商品に替えられるよう、贈り物と一緒にレシートを添付するのが一般的)、一気にダウントレンドになっていったという。

 彼らの製品はカジュアルが故に、物珍しいと感じてもらえる黎明期にはブームを作ることができたが、カジュアルだからこそ飽きられるのも早かったということだろう。では飽きられないためにはどうすればいいのか? フィットビットが出した結論は、より多くのセンサーを搭載し、より多くの機能を組み込むことである。そのためには、サイズが大きくなることをユーザーに許容してもらわなければならない。

 フィットビットは昨年、同社初のスマートウォッチ「Fitbit Ionic」を発売した。同モデルではGoogleのwear OSを用いるのではなく、独自にソフトウェアをサービスの基盤として構築した。購入者の2/3はこれまでのフィットビットユーザーではなく、リーズナブルな価格設定と、充実した機能面を評価した新規の顧客である。

 アクティビティトラッカーはダウントレンドではあるが、そこで獲得したアプリケーション開発やヘルスケア情報を管理するためのサービス、センサーの使いこなしなどのノウハウは、そのままスマートウォッチで活用できる。今後、彼らがどこまで独自路線を走れるかは不透明だが、フィットビットの経験から我々はふたつ学べる点があるのではないか。

 ひとつは、カジュアルすぎるデバイスでは飽きられてしまい、“不動産的価値”の高い手首という場所を占有できないこと。もうひとつは、製品そのものの価値を機能面で高めようとすると、存在感をなるべく消さなければならない“バンド”から、存在感を持った“腕時計”へと向かわざるを得ないという現時点での技術的な制約だ。

※編集注:100カ国以上に拠点を持つ、世界有数の市場調査会社。本社はドイツ・ニュルンベルク。日本法人のGfK Japanは1979年に設立。