腕時計の大きさと装着感の関係論
大きな腕時計は装着感が悪い。国内外を問わず、しばしばこういった言葉を耳にすることがある。確かに、一般論を言うと、小さく薄い時計ほど腕馴染みは良いだろう。しかし、必ずしも大きな時計の装着感が悪いとは限らない。カルティエ「カリブル ドゥ カルティエ」の構成に、その論拠を見て取れる。
ごく一般論を言うと、サイズが小さく薄いほど、腕時計の装着感は改善される。
「ザ・シチズン オートマティック」が直径37㎜、厚さ11.3㎜にとどまった一因である。しかし、小さくても装着感が悪い腕時計は存在するし、その逆も少なくない。実は、多くの関係者が考えるほど、腕時計のサイズと装着感の間に因果関係はないのである。では、何が装着感の良し悪しを決めるのか。それを直径42㎜のカルティエ「カリブル ドゥ カルティエ」に見てみたい。同モデルは大きなサイズを逆手に取った、装着感に優れた腕時計である。
腕に置いた際の快不快を決めるポイントは、大きく分けてふたつある。ひとつは時計の重心、もうひとつは腕との接触面積である。装着感が悪い時計は大抵重心が高いうえ、時計全体の重量に比して、接触面積が小さすぎる。したがって、仮に時計が重い場合でも、重心を低くし、腕との接触面積を広げれば、装着感は劇的に改善されよう。こうしたアプローチの優れた実践者が、カリブル ドゥ カルティエなのだ。
この時計、厚さは9.6㎜と、生半可なドレスウォッチよりも薄い。加えて、ムーブメントを可能な限りケースバックに近付けることで、重心を低く抑えている。これは、リュウズの位置がケースバックに近いことからも想像できよう(対して、リュウズの位置が高い時計は、例外なく重心が高く、装着感が悪い)。また、カリブル ドゥ カルティエの裏蓋は、ほぼフラットであり、ラグも腕に沿うように大きく湾曲している。つまり、この時計は大きなサイズを生かして腕との接触面積を広げ、時計の重さを分散させることに成功したのである。23.6㎜という幅の広いストラップも、接触面積の拡大に寄与していることは間違いない。薄くて軽く、しかも低重心、加えて腕との接触面積の大きいカリブル ドゥ カルティエ。この時計が、直径42㎜というサイズからは想像できないほどの装着感を持つのも道理ではないか。大きな時計は装着感が悪いという一般論は、こうした時計を見れば、容易に否定できるだろう。
逆に言うと、カリブル ドゥ カルティエとは反対の構成を持つ時計は、どれほどサイズが小さくとも、装着感には優れない。つまりは厚くて重く、重心が高いうえ、腕との接触面積も小さな時計である。こういった例には、黎明期の自動巻き時計が挙げられる。また、1980年代や90年代のマッシヴな時計も同様だろう。
時計のサイズと装着感の因果関係。一般的には小さく軽いほど腕馴染みは良く、大きく厚いほど感触は悪い。しかし、重心や接触面積に注意することで、サイズにかかわらず、装着感は改善できる。サイズの大きな時計を見る場合、まずはリュウズの位置と裏蓋に注目してほしい。重心と接触面積に気を配った時計なら、装着感は期待して良いだろう。