パネライ 「ラジオミール カリフォルニア 3デイズ- 44MM スペシャルエディション」
復刻と手法を異にするアーカイブスの再現と完成度
自社のアーカイブから読み解いた古典の文法に則って、完成度を高めたパネライ。しかし仔細に見れば、そのひとつひとつの手法に、古典の影は見当たらない。慎重に細部のリファインを積み重ねることで、ディテールの緊張感を高め、確立された高級時計たる風格の向こう側に、オリジナルの姿を垣間見るのである。
デイト表示を備えない750本の限定モデル。風防はドーム形状を強調するためプレキシグラスを採用する。手巻き(Cal.P.3000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径47mm)。79万8000円。問/オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110
復刻モデルを自ら謳い、それ自体が高い完成度を誇ると万人が認めるモデルであっても、原理主義的な解釈に従うならば、〝オリジナルに忠実であろうとしていない〞ことはすでに述べた。そしてその部分だけをあげつらい、忠実な復刻ではないと切って捨てることは、愛好家自身が望んでいない。この特有の機微に従うならば、明確なオリジナルを特定しないまま、復刻または復古調としての完成度を高めることすら可能となる。絶好のサンプルがパネライだ。
ここ数年、古典回帰をキーワードに完成度を高めてきたパネライ。しかしそれが、古典=オリジナルピースに忠実な手法でないことは明白だ。オリジナルのパネライは軍用時計であり、極端に言えばケースは頑強で壊れさえしなければ良しとされたはずだ。対して高級時計としての現代のパネライは、数多く作られた軍用品のアーカイブから適切なモチーフを選び取り、丹念なリファインを加えた。頑強さだけが取り柄だったケースには、適度な緊張感が加えられ、高級時計として適切な〝間〞を表現するまでに昇華されている。パネライのケースがシンプルな見かけ以上に、複雑な面構成で成り立っていることは、ケース製造を担うドンツェ・ボームの悲鳴が物語る。敢えて言えば、パネライは軍用機の凡庸さを捨て去ることで緊張感を高め、高級時計としてのアイデンティティを確立したのである。この手法は決して〝復刻〞には当たらない。しかし古典機としての純度、高級時計としての完成度は比類ない。そして背後にはやはり、オリジナルの影を幻み視てしまうのである。 (鈴木裕之:本誌)