日付表示窓大型化への挑戦
カレンダー機構の外観をモダンにし、省スペース化を図ることができる窓表示は、一方で、開口部のサイズに限界があり、それが視認性を損なう原因となる。
表示窓の巨大化は、視認性を高める上で、またカレンダー表示を際立たせるデザイン的なアプローチとしても取り組むべき大きな課題であろう。
H.モーザーの永久カレンダーは、この日付表示の巨大化に挑み、見事に美しく、機構的にも優れた解決策を見いだした。
複雑機構でありながら、シンプルを極めたダイアルであるが故に際立つ大きな日付表示窓は、見やすいだけでなく、その切り替わる動きにも見せ場を持つ。
上下2層のディスクが永久カレンダーを革新
視認性に優れたシンプルで機能的な永久カレンダーに加え、7日間のロングパワーリザーブも魅力のひとつ。9時位置に置くパワーリザーブ計もまた、造作はさりげなく、ミニマルな外観に影響を与えない。手巻き(Cal.HMC 341)。28石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約7日間。18KRG(直径40.8mm)。3気圧防水。1300万円。
何の情報も与えられず、この時計を初見で永久カレンダーだと見破れる人は、ほとんどいないであろう。2006年に「モーザー・パーペチュアル1」の名で登場し、その年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで複雑時計部門の最優秀賞を受賞したのは、永久カレンダーを究極のミニマリズムで表現した点が高く評価されたから。一見、日付表示しか持たないと判断するだろうが、実際には時分針と同軸につつましく置く小さなアロー型針が指し示す時インデックスによって、月が判別できる仕掛けに。曜日表示を外したことで、ダイアルはより整理された。一方で、日付表示窓は視線を強く誘うほどに大きく、視認性は極めて良好である。
ツインバレルによる7日巻き。また、単独で取り外し、調整・修理を容易にする独自のモジュール型脱進機を備える。1万8000振動/時のロービートは、好事家向き。リュウズは1段引きでカレンダー、2段引きで時刻合わせが行えるが、1段引きで必ず一度停止するダブル・プル・クラウンと名付けられた機構を備え、誤操作を防ぐ。パーツのほぼすべてにゴールドを用いた特別仕様。
日付表示の巨大化は、他社でも試みられている。10の位と1の位の各数字を異なるディスクで左右に並べた、いわゆるビッグデイトがそのひとつ。しかしH.モーザーは、ふたつの数字を分離することなく、日付表示窓の巨大化に挑んだ。それはただ、窓を大きくすれば済む話ではない。1枚のディスクに31日分の数字を刻んだ一般的な日付ディスクの場合、1日分に許される角度は、360/31で、わずか11.6度しかなく、窓の拡張には限界があるからだ。そこで同社は、日付ディスクを上下2枚に分けた。上側は2日分のスリットを設けたC型として1〜15の目盛りを刻み、16〜31はそのスリットからのぞく下側のディスクに担わせた。結果、1日分の表示に許される角度は360/17=21度まで拡大され、表示窓を巨大化できたのである。
2枚のディスクを左右に並べるのに比べ、上下2層式の日付表示は2桁の間を断絶する段差やフレームがなく、また1〜9日の間は1桁表示で数字を窓の中央に置くことができ、見栄えを損なうことはない。さらに上下2層の日付ディスクは、永久カレンダーに採用されたことで、大きな見せ場も与えられた。それは小の月の月末に訪れる。30日あるいは2月であれば28日や29日を表示している窓は、新たな月を迎える深夜0時に、上側のディスクが動いて下側のディスクを隠し、瞬時に1日へと表示が移行するのだ。この動きは他にはない。
閏年表示も実は備わり、それは裏蓋側にこれまた控えめに配置されている。前述のユリス・ナルダンの永久カレンダーと同じく連続型を採用し、リュウズ操作でカレンダーは早送りも逆戻しも可能。シンプルな外観と同じく、操作も簡潔である。
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