〝GSを超えるGS〟 新スポーツコレクション
厳格なデザインコードの中で、さまざまな造形に挑んできたグランドセイコー。その集大成とも言えるのが、2019年に発表された新しいスポーツコレクションだ。グランドセイコーを象徴する獅子のモチーフを、ディテールだけでなく、装着感にまで反映させた点、その完成度は比類ない。
特別精度のスプリングドライブを搭載したクロノグラフGMTモデル。ラグを省き、4つの斜面を強調したデザインが目を引く。ケースの直径44.5mm、厚さ16.8mmと大ぶりだが、重心を下げ、全長を短くすることで軽快な装着感を得た。自動巻きスプリングドライブクロノグラフGMT(Cal.9R96)。50石。パワーリザーブ約72時間。20気圧防水。
2019年、グランドセイコーはスポーツモデルに新しいアイコンを加えた。「スポーツコレクション スプリングドライブ20周年記念限定モデル」だ。グランドセイコーのデザインを統括する久保進一郎氏は語る。「2017年、グランドセイコーの世界観を大胆に表現したデザインを加えようと考えました」。そこで社内でデザインコンペを開催。勝ち残ったのは檜林勇吾氏のデザインであった。「リアルスポーツではなく、飼いならされない誇り高い男の強さを演出したい。これがそもそものアイデアでした。そしてオンでもオフでも、都会で使える時計。イメージしたのは高級SUVでした」(檜林勇吾氏)。
本作は2018年発表の通称「タフGS」で作られたスポーツコレクションの考え方をベースに、グランドセイコーの象徴である獅子をデザインモチーフとして取り入れたものだ。ラグを短く切り、斜面を大きく取ったデザインは、獅子が爪で腕を掴むさまをイメージ。その〝爪〞を強調すべく、ザラツ研磨で整えた大きな斜面には筋目仕上げが施された。
加えて、この時計は今まで以上に優れた装着感を持っている。時計の重心を下げて腕上のぐらつきを抑えたほか、新規設計のブレスレットは、厚いケース本体とのバランスを改善した。また、ケースもグランドセイコーでは珍しいラグレスだ。そのため、直径44.5㎜にもかかわらず全長は短く、取り回しはかなり良い。「理想の装着感を目指した」と檜林氏が語るのも納得だ。
同じく特別精度のベーシックな3針モデル。若さを強調すべく、文字盤には明るいイエローブラウンが採用された。時計とブレスレットの重量バランスも良好だ。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R15)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタン(直径44.5mm、厚さ14.3mm)。20気圧防水。世界限定500本。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。115万円。7月6日発売予定。
獅子のモチーフを追求する姿勢は、ディテールにも見て取れる。インデックスも獅子の爪をモチーフにしたほか、文字盤には獅子のたてがみをイメージした模様をプレスで転写している。文字盤の色も同様だ。ライオンの毛の色は、年齢によって変わるという。そこでSBGA403はイエローブラウン、SBGC231はブラウン、SBGC230にはダークレッドが与えられた。 今までのグランドセイコーにはないデザインを盛り込んだ本作。もっとも、久保氏はこう語る。「デザインはまったく新しいように見えますが、基本的に、グランドセイコーのデザインコードは守っています」。
基本的なデザイン文法を守りつつ、獅子のモチーフをデザインに昇華してみせた新しいスポーツコレクション。爪が腕を掴むというアイデアをデザインのみならず、装着感の改善策として明示した点、時計としてのパッケージングも非凡だ。これほど一貫性のある時計が、日本から生まれるとは誰が想像しただろうか?
(右下)新スポーツコレクションの特徴が、大きな4つの斜面である。ザラツ研磨を施した後、“爪”を強調すべく、斜面にだけ筋目仕上げを施している。一見シンプルだが、4つの面の形を崩さずに、これだけ広い面を磨いていくのは非常に難しい作業である。極めて野心的な造形だ。
(左上)大きく湾曲したケースサイド。意図的に重心を下げただけでなく、ラグの下側も曲げることで、腕への接触面を増やしている。頭頂部に同心円状の溝を刻んだプッシュボタンは、高級オーディオに触発されたものだという。加えて、頭頂部を拡張することで接触面が大きくなり、操作感を改善する。
(左下)SBGC230とSBGC231は、スプリングドライブクロノグラフGMTのCal.9R96を搭載する。裏蓋の刻印からも分かるように、防水性能は20気圧もあるため、シチュエーションを選ばずに使えるだろう。写真が示す通り、肌に当たる角は意図的に丸められており、手首へのなじみは大変に良い。