Tradition Tourbillon Fusée 7047
2005年にスタートした「トラディション」は、アブラアン-ルイ・ブレゲが考案した伝説の1本針時計「スースクリプション」からインスピレーションを得て、その典型的なムーブメント構造をフェイスのデザインに応用し、伝統と前衛という一見相反する要素を見事に両立させたコレクションである。中でも極め付きは、トゥールビヨンの発明時に近い構造と古典的な鎖引き装置によるコンスタントフォース機構を併せ持つ、この絶妙な7047だ。
「トラディション」初の複雑時計として2007年に発表され、2012年には一段と優美なローズゴールドモデルが登場した。ムーブメント両面に施されたローズゴールド色のグルネ仕上げも18世紀から19世紀の典型的なブレゲの懐中時計を彷彿とさせる。手巻き(Cal.569)。43 石。1万8000 振動/ 時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径41mm)。3気圧防水。1901万円。
古典の型破りな新解釈 ワン&オンリーの個性
ブレゲの現行の複雑時計の中には、もしも今、アブラアン-ルイ・ブレゲが生きていたなら、こんな腕時計を考案したのではなかろうかという想像を掻き立てる複雑時計がいくつもあるが、「トラディション トゥールビヨン・フュゼ7047」は間違いなくそのひとつだ。ムーブメントがあらわになり、メカニズムのエレメント自体がフェイスを形作る「トラディション」特有のデザインを踏襲して2007年に初めて発表されたこのトゥールビヨンは、シンメトリーを保ちながら意図的にずらしてレイアウトされた4つの主要パーツが唯一無二の個性を発揮する特異なモデルだ。
まず目を奪うのがカンチレバー型の片持ちブリッジで支えられた巨大なトゥールビヨンキャリッジ。その外観は、1801年にアブラアン-ルイ・ブレゲが特許を取得したオリジナルの設計に通じる古典的なものだが、チタンを採用して軽量化を図ったキャリッジとテンワ、シリコン製ブレゲ式ヒゲゼンマイなど、先端技術では近年の革新の結晶と言える。 トゥールビヨンと対称の位置で存在感を放つのは、ギヨシェ彫りで装飾されたオフセンターダイアル。このダイアルを左右から挟み込むように置かれているのが、鎖を介して連動する香箱と円錐滑車(フュゼ)である。動力伝達を一定に保つコンスタントフォース機構をトゥールビヨンに組み合わせ、安定した高精度の実現を目指す方法は、1808年に販売された傑作トゥールビヨン「№1188」と同様で、その現代版はまさに「古典と前衛との融合」を象徴している。
Classique Tourbillon Perpétuel Calendar 3797
トゥールビヨンのバリエーションが豊富なこともブレゲの特色だ。とりわけ愛好家を魅了するのは他の複雑機構と組み合わせたグランドコンプリケーションである。手巻きトゥールビヨンの基幹ムーブメントCal.558をベースにして永久カレンダーを加えたこのモデルはその代表的な傑作と言える。トゥールビヨンとオフセンターダイアル、そして永久カレンダーが形作る上下左右の美しいバランスや重層的な立体感の演出も秀逸だ。
トゥールビヨンのシンプルなモデルにも多用される基幹ムーブメントCal.558は、補正用のチラネジが備えられたテンワにブレゲ式ヒゲゼンマイを組み合わせ、ロービートで振動する古典的な設計を持つ。手巻き(Cal.558QP2)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径41mm)。3気圧防水。1785万円。
立体的なデザインで視認性が一段と向上
6時位置のトゥールビヨンと同軸直結スモールセコンド、12時側のオフセンターダイアルとレトログラード式日付表示、3時位置の12カ月と閏年表示、そして9時位置の曜日表示。これら4要素がサークルを交錯させながら、複雑時計の整然としたフェイスを創出するブレゲのトゥールビヨン パーペチュアルカレンダーは、以前よりグランドコンプリケーションのアイコニックピースとして注目を浴びる存在だ。この「クラシック トゥールビヨン パーペチュアルカレンダー 3797」は、その後継として2014年に登場した進化版。ケースの直径が41㎜にサイズアップしたのに加え、ダイアルにも新たな手法が取り入れられ、現行ブレゲにおけるひとつの完成されたスタイルを確立した名品である。
以前の「3757」では時刻のインデックスを配したチャプターリングの上に永久カレンダーの12カ月・閏年表示、曜日表示の各サブダイアルがかぶさるようにデザインされていたが、この「3797」ではその上下関係を逆転させた。新たに、インダイアルより一段高い位置にサファイアクリスタルを用いた別体のチャプターリングを取り付け、その立体効果によって時刻表示が前面に迫り出し、格段に見やすくなったのである。
手動彫り機で巧妙にパターンを変えて施された4種類のギヨシェをはじめ、トゥールビヨン上で秒を刻む3本針スモールセコンド、アップルのモチーフを一段と強調したブレゲ針、ブルースティール針と色を合わせた閏年の太陽モチーフなど、ディテールの洗練も見どころだ。
Heritage Tourbillon 5497
「クラシック」や「トラディション」コレクションにインスピレーションを与えているのは、アブラアン-ルイ・ブレゲ時代の古典的な懐中時計である。これらに対して「ヘリテージ」は、ブレゲのデザインコードを腕時計に応用して創作された、また別のコレクションだ。20世紀初頭の腕時計によく見られたトノー型を21世紀のスタイルに仕立てた「ヘリテージ」においても、トゥールビヨンがブレゲの個性を主張する。
ケース側面のフルート装飾やブルースティールのブレゲ針などにデザインコードを生かしつつ、湾曲したケースやベゼル、ギヨシェ彫りダイアルの製作に極めて難度の高い職人技が見事に駆使されている。手巻き(Cal.187H)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。Pt950(縦42×横35mm)。3気圧防水。1548万円。
ダイアルの躍動感が刺激的な異色モデル
トノー型ケースといえば、腕時計にとっては草創期にあたる20世紀初頭からアールデコ期に時計メーカー各社が競って作った人気のタイプ。この時代のブレゲも、トノーやレクタンギュラーの腕時計を作っていたことは、歴史が伝える通り。現在の「ヘリテージ トノーカンブレ」は1990年代後半に誕生した、現代のブレゲによる創作コレクションである。そして、2針やクロノグラフに続いて2008年に初めて登場したのが洒落たトゥールビヨン搭載モデルだ。
搭載するキャリバー187Hは、右ページで紹介したキャリバー558同様に、チラねじ付きテンワとブレゲ式ヒゲゼンマイを組み合わせた古典的な系統に属す手巻きのトゥールビヨンムーブメントで、オフセンターの時刻表示と向き合って存在感を主張する。このように両要素が左右の対称性を保って縦一列に並ぶレイアウトは、ブレゲの他のトゥールビヨンにも多く見られるが、このモデルの真骨頂は、トノーの枠を超えて外へ外へと拡散していくかのような躍動感あふれるダイアルのエステティックにある。
オフセンターダイアルのフレームと一体になったローマ数字のインデックスは、大胆にデフォルメされて立体的に浮き上がり、氷河をイメージしたというギヨシェ彫りによる揺らめくような周囲の模様も凝りに凝っている。そして見逃せないのが、ローマ数字の「Ⅵ」をかたどったトゥールビヨンのアッパーブリッジ。あくまでも正統派を演じながら、ブレゲでは珍しい弾ける遊び心が、このモデルの隠れた魅力と言っても良さそうだ。
Classique Tourbillon Messidor 5335
上で紹介した「トラディション トゥールビヨン・フュゼ 7047」が発表された同じ年、ブレゲはもうひとつのサプライズを用意した。メインプレートとブリッジを極限まで削ぎ落としたフルスケルトン仕様で、なおかつトゥールビヨン機構自体が宙に浮いて見えるミステリアスなモデルだ。トゥールビヨンの元祖として、あくまでも正統派のスタイルを貫いてきたブレゲにしては、意外なほど洒落た遊び心で楽しませる異色作である。
「メシドール」はアブラアン-ルイ・ブレゲがトゥールビヨンの特許を取得した共和暦第9年メシドール7日(1801年6月26日)に由来する。フルスケルトン化に合わせ、トゥールビヨンキャリッジも両面を透明に設計されたCal.558SQ2はCal.558がベース。手巻き。25石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径40mm)。3気圧防水。1670万円。
ミステリーを秘めた巧妙なトゥールビヨン
最高峰の複雑機構の中でも、ミニッツリピーターや永久カレンダーなどは、原理と機械的な仕組みに神秘性を感じさせることは少ないが、少々事情が異なるのがトゥールビヨンだ。キャリッジに収納された調速脱進機が姿勢差を刻々と解消して高い精度を維持しているとしても、その効果を実感として捉えることは現実的には難しい。ゆえにミステリアスなものに感じられるのと同時に、機能を抜きにしても目を楽しませてくれる贅沢な装飾として珍重されるのだ。
神秘的な複雑機構という印象を人に抱かせるトゥールビヨンなら、思い切り神秘性を強調した設計にしてみては面白かろうと、ブレゲの設計者は考えたのかもしれない。この「クラシック トゥールビヨン・メシドール 5335」では、トゥールビヨンがフルスケルトンのムーブメントの大半を占有し、しかもそれが透明な空間に浮いて見えるから誰でも不思議に思うに違いない。トゥールビヨンを動かす輪列とのつながりが見えないマジックのような仕組みは、いわゆるミステリークロック以来の伝統的な奥の手を応用したもの。簡単に言えば、キャリッジを2枚のサファイアクリスタルのディスクで固定し、ディスク自体を外部から回転させているのだ。だが、あらゆる動的機構が目に見えるはずのこのスケルトンウォッチも、守り抜くべき最後の神秘は残している。だからこそ、理屈では理解しているつもりでも、時計を見るたびに不思議な感動を覚えるのだ。これこそ、ブレゲのトゥールビヨンの中でも最高峰のエンターテイナーと呼べるかもしれない。
Classique Tourbillon 3358
トゥールビヨンの現行モデルはいずれも、時計の随所に2世紀も受け継がれる伝統的なデザインコードを取り入れ、オーセンティックなスタイルを守っている。あくまでもひと目でブレゲと分かるエステティックがデザインに反映され、高級時計としての品格や優美な味わいは比類ない。その神髄は、高度な時計技術のみならず、熟練の職人技が駆使され、ダイヤモンドの輝きが添えられた、フェミニンな小型モデルにも見ることができる。
グラン・フー・エナメル仕上げ文字盤(左)と手動ギヨシェ彫り機によるギヨシェ模様で装飾したマザー・オブ・パール文字盤(右)にブレゲの職人技を駆使。いずれもムーブメントは基本的な手巻きCal.558.1を搭載。25石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWG(直径35mm)。ベゼルとラグにダイヤモンドをセッティング。3気圧防水。(左)1275万円。(右)1229万円。
メティエダールが語るブレゲ伝統の美意識
今からおよそ30年前のこと。現在のブレゲが、腕時計にトゥールビヨン機構を搭載した古典的なモデルを世に送り出してから、その基本的なスタイルは一貫して変わっていない。トゥールビヨンの存在感を過度に強調するために奇をてらった演出を施したり、トゥールビヨンをデザイン的な装飾要素として殊更に利用したりは決してしてこなかったのがブレゲだ。本筋からの逸脱を注意深く回避し、ブレゲならではの本質を守ってきたのである。
トゥールビヨンの製作技術とブレゲ・スタイルのデザイン、そしてアルティザンによるメティエダール。いずれも2世紀も前のアブラアン-ルイ・ブレゲ時代にまでさかのぼるものだが、それらの融合が今なお高次元で具現化されているのがブレゲの特色だ。特にメティエダール、すなわち職人の手仕事による芸術的な工芸には注目すべきものがある。ブレゲ伝統のアイコニックなギヨシェ彫りは、自社内に設けられた専用工房で行われ、専門職人がゴールド製ダイアルや天然マザー・オブ・パールに繊細な模様を手動ギヨシェ彫り機で刻み込んでいる。
約800℃の高温で炉焼きする古典的なグラン・フー・エナメル仕上げのダイアルも同様だ。ギヨシェ彫りとブルーエナメルを組み合わせ、トゥールビヨン周囲のプレートにエングレービングを施した左のモデルは、かつての貴婦人が愛用した小型の懐中時計を想起させる。ダイヤモンドの輝きも高貴な趣を添えるが、絢爛豪華ではなく、節度ある華やぎというブレゲならではの美意識に徹している。
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