“ROUND DIAMONDS”
腕時計の装飾として最も多く使われる宝石が、丸型の“ラウンドダイヤモンド”である。ベゼルにセッティングされたラウンドダイヤモンドモデルから3本をここに集めた。レギュラーコレクションに輝きを添えた“デイリーユース”なダイヤモンドモデルの一方で、ダイヤモンドそのものを主役に据えた、極めてジュエリーライクな趣向が展開される。
ダイヤモンドのクラウンからは8本の矢、パビリオンからは8個のハートがのぞくアイデアルカットによって光をファセットの中で屈折させ、最大限のブリリアンスとファイア(虹色の光)を生み出す。セッティングはジュネーブにあるフランク ミュラーの工房で行われる。自動巻き。18KWG(縦52×横44mm)。日常生活防水。ダイヤモンド(合計約9.3ct)。1600万円。
ラウンドダイヤモンドといえば58面体のラウンドブリリアントカットが思い浮かぶことだろう。しかし、メレー以下のパヴェセッティングやインデックスを飾るポイントダイヤモンドなどには17面体のシングルカットなど、ファセット数の少ないダイヤモンドが用いられることがある。小さな石の場合は面の少ないカットのほうがより鮮明な輝きをもたらしてくれるからだ。サイズやセッティングする場所によって使い分けることで、ダイヤモンドウォッチはバランスの良い輝きを生み出すのである。
創業者アブラアン-ルイ・ブレゲへのオマージュである「クラシック」。無駄のないシンプルな文字盤にふさわしい細身のベゼルデザインに沿うように、84個のダイヤモンドを控えめにあしらっている。さらにホワイトエナメルダイアルとのコンビネーションは品格を感じさせる。自動巻き(Cal.777Q)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KYG( 直径38mm)。3 気圧防水。ダイヤモンド(合計約0.634ct)。325万800円。
ここで紹介するのはいずれもラウンドダイヤモンドを使用した時計だ。ブレゲやオーデマ ピゲのアイコニックなデザインに対し、独特の存在感を醸すのがバックス&ストラウスである。ダイヤモンドのカッティングから製作をスタートするという同社では1919年にマルセル・トルコフスキーが編み出した完璧なシンメトリーのプロポーションから成るアイデアルカットのダイヤモンドが使用されている。「リージェント」においてはダイヤモンドとダイヤモンドの間にミル打ちの小さな粒を加えることでより華やかに見える効果を狙ったという、いかにもダイヤモンドメゾンらしい仕上がりが見逃せない。
ラグジュアリースポーツウォッチの代名詞「ロイヤル オーク」。写真は直径37mmというミニマムなサイズ感が魅力のユニセックスモデルだ。スタイリッシュなグレーの色使いが透明感あふれるダイヤモンドによく似合う。ベゼルとケース部分に152個のラウンドブリリアントカットダイヤモンドがセッティングされている。自動巻き(Cal.3120)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPG(直径37mm)。5気圧防水。ダイヤモンド(合計約2.46ct)。485万円。
ブレゲは昨今、ジュエリー分野においても躍進が目覚ましく、オーデマ ピゲはル・ブラッシュの工房にジュエラー出身のセッターを常駐させ、ハイジュエリーモデルはもちろん、通常は部門を分けるレギュラーモデルに関しても同じアトリエで製作している。こうした各社のスタイルの違いを愉しむことができるのも、ラウンドダイヤモンドが見せるオーセンティックな魅力故と言えるだろう。
“FANCY SHAPE”
マーキスやエメラルド、オーバルなどを含む“ファンシーシェイプ”(別名ファンシーカット)は、正確にはラウンドブリリアントカット以外のカッティングのことを指す。ジュエラーの創作意欲を刺激するダイヤモンドの極みともいえるファンシーシェイプを時計のベゼルに施したのがロンドン発のダイヤモンドジュエラー、グラフのタイムピースだ。
スポーティーなダイアルデザインの一方、ダイヤモンドジュエラーのテクニックを感じさせるクロノグラフ。ベゼルに施されたのは、三角形と六角形のブリリアントカットダイヤモンドを連ねたモザイク状の「グラフ・インビジブルセッティング」。セッティングはロンドンの本社と連携し、スイスで行われている。クォーツ。18KRG(直径45mm)。3気圧防水。ダイヤモンド(合計約8.11ct)。2574万741円。
ファンシーシェイプ、かつ大粒のダイヤモンドはロンドン発のジュエラー、グラフの代名詞とも呼ばれてきた。2008年、グラフはジュネーブに専属チームを結成して時計をローンチした。2014年からバーゼルワールドに出展、2015年にはスケルトンウォッチのブリッジにダイヤモンドをセッティングしたモデルを発表するなど、時計として急速に進化を遂げている。写真の時計「ザ・クロノグラフ」は、時計のフォルムそのものをひと粒のダイヤモンドに例えたという、何とも斬新な発想だ。1000カラットのダイヤモンドのファセットをイメージしたベゼルデザインに加えて、裏面のサファイアクリスタルもダイヤモンドのキューレットのように尖らせ、個性的な意匠が凝らされている。
中でもダイヤモンドジュエラー、グラフたる個性を見せているのが3つのダイヤモンドをモザイク状に連ねてひとつのファセットを形成したインビジブルセッティングである。多角形のダイヤモンドをふた粒のトリリアントカットダイヤモンドで囲むことで、通常のダイヤモンドとは異なる、実に深い光のプリズムがもたらされている。ラウンドやバゲットのように画一的なフォルムではないからこそ、より計算された正確なメソッドが必要となる、いかにも時計らしい制約を逆手に取ったタイムピースだ。グラフ・ラグジュアリー・ウォッチCEOのニコラス・セスティート氏は「宝石(ビジュー)と時計(モントル)、およびジュエラーと時計職人の距離を縮めてくれるもののひとつが〝ファンシーカットダイヤモンド〞である」と語る。ロンドンとスイスにおける2チームの強力なタッグが、未来のダイヤモンドウォッチを創造する。