特集の最後を飾るのは、どこまでもジュエリーの美を追い求めた“デザイン”だ。もはや芸術品ともいえる文字盤上の意匠から実際にダイヤモンドが動く斬新な趣向まで――
詩的かつ躍動的な表現が常に求められるジュエリーのように、さまざまな“動き”のバリエーションを見せるダイヤモンドウォッチは、ジュエリーと時計の枠を超えた新たな表現の可能性を紡ぎ出してくれるだろう。
“SPARKLING DESIGN”
ジラール・ペルゴの自動巻きムーブメントCal.4000を搭載したモデル。“光の都”であるパリをイメージしたコレクションから、これは羽根をモチーフとした時計。虹色に輝くマザー・オブ・パール文字盤に台形型のテーパードバゲットカットダイヤモンドとホワイトマザー・オブ・パールでかたどられた羽根が幻想的に舞う。自動巻き(Cal.GP4000)。27 石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径41mm)。5気圧防水。ダイヤモンド(合計約2.62ct)。905万円。
まさに舞い落ちる羽根の刹那を切り取ったかのように文字盤を彩るブシュロンの「エピュール ダール」。ジュエラーではハイジュエリーコレクションと同じ工程で宝飾時計が製作されることは多く、この羽根のモチーフもパリのハイジュエリーと同じ素材と手法で製作されたものだ。いわば、極めてジュエリーに近い発想で手掛けられたタイムピースと言えるだろう。2007年以来、ブシュロンが使用してきたジラール・ペルゴのムーブメントをベースに高さと厚さが制限される文字盤のセッティングの中で、針に触れるぎりぎりまでモチーフを細工し、ジュエリー製作の矜恃でもある詩的な表現を文字盤にもたらした。
そして、ダイヤモンドを輝かせるための〝動き〞に特化した作品が次の2点である。前項のピアジェ同様に時計とジュエリーの両分野に注力してきたショパールの代表作が、2016年に誕生40周年を迎えた「ハッピーダイヤモンド」だ。文字盤の周りでダイヤモンドが躍るこの時計は当初、男性用として登場したものであり、写真はオリジナルを踏襲したクッション型のモデル。特徴的なのは、この時計にはリングに使用する爪留めのプロングセッティングが用いられているという点だ。ベゼルに加え、通常はゴールドのソケットにはめ込まれるムービングダイヤモンドも星形のようなプロングセッティングにより洗練の表情を宿している。限定モデルならではの特別仕様だ。
1976年に登場した、ダイヤモンドが2枚のサファイアクリスタルの間で動く「ハッピーダイヤモンド」のファーストウォッチにオマージュを捧げる限定モデル。通常4~6本という偶数の爪で留めるプロングセッティングだが、文字盤上のムービングダイヤモンドは5つの爪で留めることにより、まるで星形のようなデザインが与えられている。標準はサテンストラップだが、写真はクロコダイルストラップに変更。クォーツ。18KWG(縦37.85× 横37.85mm)。30m防水。ダイヤモンド(合計約5.56ct)。595万円。
さらに〝動きとダイヤモンドのコンビネーション〞を提示し続けているブランドがヴァン クリーフ&アーペルである。「ポエティック コンプリケーション」はその代表作であるが、ここで紹介するのは2007年に登場したレトログラードウォッチだ。アジェノー社製のモジュールを載せることで、8個近くのダイヤモンドを配したフェアリーの重い羽根を動かすことに成功した。まさにダイヤモンドを用いた装飾の可能性を格段に広げてくれたものであり、ジュエリーと時計の単なる足し算ではない、掛け算的な相乗効果を感じさせるタイムピースである。昨年同社から発表されたLEDでダイヤモンドを光らせる「ミッドナイト ニュイリュミヌーズ ウォッチ」も記憶に新しい。例えば、稀少なタイプⅡaのダイヤモンドを惜しげもなく使用したハイジュエリーウォッチから、宝石の魅力を最大限に引き出すためのからくりとしての技術を高めたタイムピースまで――時計という制約の中でダイヤモンドをいかに表現するのかを追い求める姿から、ますます目を離すことができない。
“ポエティック コンプリケーション”のコレクションから、2007年に登場したレトログラードモデル。アジェノー社の時計師、ジャン=マルク・ヴィダレッシュ氏によるレトログラードモジュールが搭載されている。フェアリーの魔法の杖が時を、羽根が分を指し示す。フェアリーの顔にはマーキスカットダイヤモンドを使用。手巻き(Cal.JLC846ベース)。182石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約30時間。18KWG(直径38mm)。3気圧防水。ダイヤモンド(合計3.05ct)。1250万円。