第2の革命 「止まらない」「狂わない」「美しい」
2012年に発表されたGPSソーラー腕時計が「セイコー アストロン」である。1969年に発売された初代アストロンと、新しいハイテクウォッチの間に技術的なつながりはない。しかし、セイコーはあえてアストロンという名前を、このGPSソーラー腕時計に与えた。理由は、高精度を普及させるという使命が、初代アストロンに同じだったからである。
初代アストロンをモダナイズした50周年記念限定モデル。1日最大2回自動的に時刻を受信するスーパースマートセンサー、3軸独立モーター搭載による高速タイムゾーン修正機能、2カ国の時間を瞬時に入れ替えできるタイムトランスファー機能を備える。GPSソーラー腕時計であることを感じさせない時計。GPSソーラークォーツ(Cal.5X53)。セラミックス×SS(直径42.7mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。限定1500本。27万円。
1969年に発売された初代アストロンは、当時の標準的な機械式時計に比べて約100倍も正確だった。その月差は±5秒以内。以降もセイコーはクォーツ時計の精度を高め、現在、グランドセイコーが搭載する9Fクォーツの一部モデルは、年差±5秒以内という超高精度を持つに至った。
では、さらに高精度を得るにはどんな機能を加えればいいのか? その解のひとつが電波時計であった。2004年、セイコーは標準電波を受信して時間を修正する電波時計をリリース。原子時計を基準器に持つ電波時計は理論上非常に優れた精度を持つが、セイコーは問題点も理解していた。標準電波を発信するのは世界で4カ国しかないため、電波の届かない国では必ずしも正確な時間を得られなかったのである。
2019年に新たに加わった女性用のモデル。基本的な機能は5シリーズに同じ。毎日最大2回、GPS衛星からの電波を自動受信するため、常に正確な時間を示す。薄いバッテリーを搭載するにもかかわらず、持続時間は5Xシリーズに同じである。また、レバー式のインターチェンジャブルストラップも備わった。GPSソーラークォーツ(Cal.3X22)。セラミックス×SS(直径39.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。予価23万円。
そこで同社は、世界のどこでも高精度を得られる時計の開発に着手した。着目したのは、地上から発信される標準電波ではなく、GPS衛星の電波を受信して時刻を修正する衛星時計だった。セイコーエプソンは、すでにGPSで位置を把握する装置を開発していたが、この機能を腕時計に収めるのは不可能と見なされていた。GPS衛星から電波を受信する際の消費電力は電波時計の約200倍になる上、正確に受信するには巨大なアンテナが必要となる。腕時計に収めるためには一層の小型化と省電力化が不可欠だったが、それは奇しくも初代アストロンが求めた要件とまったく同じだったのである。
いくつかの技術革新が初代アストロンを可能にしたように、3つの要素が衛星時計の開発を可能にした。コンパクトな受信用リングアンテナと超省電力GPSモジュール、そして電波を受信しやすく、腕時計らしい外観だ。12年、ついにセイコーは世界初の量産型GPSソーラー腕時計をリリース。そして同社はこの時計に「アストロン」という輝かしい名前を与えた。1969年に発表された金無垢の3針時計と、21世紀にリリースされたハイテクウォッチに技術的なつながりはない。しかし、小型化と省電力化を積み重ねて、量産時計の精度を塗り替えた点で、このふたつはまったく同じだった。
2012年に登場した新生アストロンの初代となる「7Xシリーズ」は、そのユニークさを強調するかのように、他にはない外観とインターフェイスを持っていた。しかし、14年の「8Xシリーズ」は、より小さな外径と普通の時計に近い外観に改められた。そして18年の「5Xシリーズ」では、その見た目も操作性も普通の時計にほぼ相違ない。加えて、時刻修正の際には、最短わずか3秒で受信が済んでしまう。まずは高精度を与え、その後に改良を加える。新しいアストロンは、かつてのアストロンとその後継機が来た道を、同じようにたどったのである。その現時点における帰結が、19年に発表された新しい3Xシリーズだ。この世界初の女性用GPSソーラー腕時計に、もはやかつての衛星電波時計を感じさせる要素はなにひとつない。
クォーツウォッチが進化を遂げ、その高精度を当たり前の存在に変えたように、現代のアストロンもまた、超高精度を普通のものにした。新型アストロンがもたらしたものとは、「第2の革命」そのものなのである。
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