初作とは思えないブレスレットの完成度
まずはSS製の外装から。ケースは今までのA.ランゲ&ゾーネに同じで、ベゼルとミドルケース、そして裏蓋から構成される。仕上げはサテンとポリッシュの併用。筋目や鏡面仕上げの水準は、18Kゴールドケースのモデルにほぼ同じである。また、裏蓋の刻印も18Kゴールドケースに同じく、切削で彫り込んでいる。硬いステンレススティールに深い彫り込みを与えるとコスト増になるが、あえて採用したのはA.ランゲ&ゾーネの矜持だろう。写真で見るとケースは大きく見えるが、直径が40.5mm、厚さは11.1mmしかない。
付属するSS製のブレスレットはかなり出来が良い。現在多くのスポーツウォッチ、あるいはスポーティーウォッチはできるだけコマ数を減らそうとしている。製造コストを下げられるほか、壊れにくく、左右の遊びの調整が容易なためだ。A.ランゲ&ゾーネもそのトレンドに追随すると思いきや、オデュッセウスのブレスレットは凝った5連である。しかもIWCのように、ピンを使ってすべてのコマを分解できる。IWCのノウハウを転用したことは容易に想像できるが、当然ながら出来映えはIWCよりも上である。
コマの動きは滑らかで、左右の遊びも良く抑えられている。遊びを過剰に詰めなかったのはA.ランゲ&ゾーネの見識で、正直、その感触は、初めて作ったブレスレットとは思えない。また、ヘッドとブレスレットの重さが適切なため、長時間装着しても疲れにくいだろう。なおブレスレットの滑らかさは、IWCのパイロットウォッチが備えていた7連ブレスにはわずかに及ばないが、筆者が触った個体が、プロトタイプであったことは考慮すべきか。
装着感への配慮を示すのが、良くできたバックルである。一般的に、ラグジュアリースポーツウォッチやスポーティーウォッチの多くには、微調整が可能なバックルが備わっていない。できるだけバックルを薄くするためと、故障しにくくするためだ。時計が大きく重くなると、厳密なフィッティングが必要になるため、バックルには微調整が付くようになる。しかし、こういったバックルは、薄くて軽いラグジュアリースポーツウォッチやスポーティーウォッチには過剰と考えられてきた。少なくとも、デスクワークの邪魔にはなるだろう。
オデュッセウスのバックルには、やはりIWCのパイロットウォッチよろしく、微調整機能が備わっている。バックルのロゴを押すと、最大7mmまで延長できる。感心させられたのは、バックルのプレートが短いことと、バックルの厚みを抑えた点である。細腕の人でもバックルがはみ出すことはなく、微調整機能がついているにもかかわらず、デスクワークの邪魔にならないはずだ。なおバックルのプレートを短く切ると、しばしば拳が通らない場合がある。しかし、オデュッセウスのブレスレットは、短いプレートにもかかわらず拳が通った。当たり前に思えるが、初めて製作したのブレスレットは思えないほどの配慮である。