年次カレンダーカタログ
ここでは現行の年次カレンダー搭載機をふたつのタイプ、つまり歯車型とレバー型で区分してみた。十分カバーしきれてはいないが、比較すれば、それぞれの大まかな特徴は見て取れるはずだ。なお、とりわけ注目すべきは、さまざまなタイプの年次カレンダーに取り組むスウォッチ グループ各社だ。
歯車型
かつての弱点を克服しつつあるのが、カレンダーの切り替えを主に歯車だけで行う歯車型の年次カレンダーだ。以前は量産に向かないとされてきたが、工作機械の進歩と新しい設計の遊星歯車はこの仕組みを、一躍メインストリームに押し上げた。
2018年の発表モデルに追加された文字盤違い。年次カレンダーモジュールは、歯車のみで構成される。そのためリュウズによる早送りと逆戻しが可能だ。また歯車型としては珍しく、カレンダーは半瞬間送りである。手巻きだが、駆動時間が長いため実用に向くだろう。審美性と実用性を備えた傑作。Cal.LF126.01。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm)。30m防水。660万円。問DKSHジャパン☎03-5441-4515
視認性と操作性を重視した、歯車型アニュアルカレンダーを搭載するモデル。加えて8時位置には単独調整可能な、第2時間帯表示を備える。ラグの付け根に曜日と月の調整用コレクターがあるため、調整はかなり容易だ。ケース厚が11.04mmしかないため取り回しも良好だ。自動巻き(Cal.6054F)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm)。3気圧防水。267万円。問ブランパン ブティック銀座☎03-6254-7233
20万円台という価格を実現した年次カレンダー。一見、オメガの機構に似ているが、ロンジン曰く、モジュールを含めて純然たる新規設計。歯車型のため、リュウズを用いてのカレンダーの早送りだけでなく、理論上は逆戻しも可能と言える。長いパワーリザーブと合わせて実用性は高い。自動巻き(Cal.L897.2)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約64時間。SS(直径40mm)。3気圧防水。26万7000円。問ロンジン☎03-6254-7351
レバー型
しばしば、簡略版の永久カレンダーと揶揄されてきた、レバー型の年次カレンダー。しかし、レバー型の特徴である“テコの原理”を積極的に用いることで、各社は年次カレンダーに、見やすくてユニークな表示を盛り込むことに成功した。好例がIWCである。
非常に戦略的な価格を持つ年次カレンダー付きクロノグラフ。デュボア・デプラの協力で開発された年次カレンダーモジュールは古典的なレバー型だが、既存のものとはまったく異なるレイアウトを持つ。魅力的なモデルだが、パワーリザーブはやや短い。自動巻き(Cal.MB25.09/SW300-1ベース)。42石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRG(直径42mm)。30m防水。222万8000円。問モンブラン コンタクトセンター70120-39-4810
12時位置に月、日付、曜日表示を備えた年次カレンダー。表示を拡大できた理由はテコの原理を利かせられる、巨大なレバーを文字盤側に内蔵したため。結果、カレンダー作動時の振り落ちが小さいというメリットを得た。リュウズでの日付調整が可能なため、個別調整機能を持たない。自動巻き(Cal.52850)。36石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径44.2mm)。3気圧防水。213万5000円。問IWC70120-05-1868
ツァイトマスター10周年を記念したモデル。年次カレンダーモジュールには、デュボア・デプラ製のレバー型を採用する。オーソドックスな構成を持っており、信頼性は高い。ドイツクロノメーター規格をクリアしている。自動巻き(Cal.ETA2892A2+デュボア・デプラ製5900モジュール)。21石(カレンダー部を除く)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。5気圧防水。世界限定100本。121万円。問シェルマン銀座店☎03-5568-1234
デンマークを代表するブランド、ジョージ ジェンセンも年次カレンダー搭載モデルを製作している。搭載するのは、かつてボーム&メルシエが採用したのと同じ、レバー型のアニュアルカレンダーである。7時半位置にあるのはディスク式の月表示。自動巻き(Cal.ETA2892A2+デュボア・デプラ製14950モジュール)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYG(直径41mm)。30m防水。179万9900円。問ジョージ ジェンセン ジャパン70120-190-404
古典的なレバー型のアニュアルカレンダーを持つフライバッククロノグラフ。ベースとなったのはデュボア・デプラ製のモジュールだが、7時半位置にある6時間積算計がレトログラード式に改められた。基本設計を1970年代にさかのぼるため、信頼性は極めて高い。内容を考えれば価格はかなり戦略的である。自動巻き(Cal.CFB1902)。51石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRG(直径44.6mm)。50m防水。385万円。問ブヘラジャパン☎03-6226-4650
すでに述べてきた通り、年次カレンダーのメカニズムはふたつに大別できる。まずは、パテック フィリップが開発し、エクスリン博士が洗練させた〝歯車型〞。衝撃に強く、レイアウトの自由度も高いが、主に歯車だけの噛み合いでカレンダーを動かすため、大きなディスクを回せない。しかし近年は、大型ディスクを採用するほか、カレンダーの逆戻しが可能なものも見られる。もっとも、逆戻し可能をうたった年次カレンダーでも、何十日もカレンダーを戻すと、歯車の噛み合いがずれる場合がある。操作には注意が必要だ。
一方のレバー型は、2000年代以降、モジュールメーカーのデュボア・デプラが広めたものである。同社はレバー型永久カレンダーをベースにした年次カレンダーモジュールを開発し、この機構を中堅メーカーに普及させた。比較的安価で信頼性に優れる半面、レイアウトの自由度はかなり小さい。そのため各社は、オリジナリティを求めて、レバー型年次カレンダーの強みである、テコの原理に注目するようになった。大きなディスクやレトログラード表示を持つ新しい年次カレンダーは、その表れと言える。なお、道具としての信頼性を年次カレンダーに求めるならば、デュボア・デプラのレバー式を選ぶことは今なおありだろう。面白みには乏しいが、機構が熟成しているため、不具合が少ないのだ。 もうひとつが、最近見られる歯車とレバーの〝折衷型〞。ここで独立して取り上げるほど、まだ普及してはいないが、量産向きの構成を持つため、今後の主役となる可能性は高い。
とはいえ、年次カレンダーの歴史はたかだか約20年に過ぎない。今後も各社は、歯車型とレバー型の設計を、より進化させていくはずだし、ベースムーブメントのパワーリザーブが急速に延びつつある現在、その競争は、いっそう激しくなるだろう。