OMEGA (オメガ)
質感の高さが光るオメガの新作たち
ムーブメントは良いが外装はいまいち、という評価のあったオメガ。しかしこの5年で、オメガは外装でも語れるブランドへと変容を遂げた。とりわけ、文字盤への注力は価格帯を問わず、時計業界随一だろう。今年はユニークな18Kムーンシャインゴールドに加えて、文字盤にはレーザー加工のチタンなどを採用した。
マスター クロノメーター化された手巻きムーブメントを搭載した傑作。オメガの技術陣は、15の部品を非磁性の素材に替えることで、1万5000ガウスもの耐磁性能を確保した。ケースとブレスレットの素材は、パラジウムの含有量を増した18Kムーンシャインゴールド。酸化が起きにくいという特徴を持つ。手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。直径42.0mm。5気圧防水。世界限定1014本。371万円。
今や、アッパーミドルクラスの台風の目となったオメガ。月面着陸50周年となる2019年は、ふたつの「スピードマスター」限定版に、マスター クロノメーター化した手巻きのキャリバー3861を搭載した。
ここでは「スピードマスター アポロ11号50周年記念リミテッドエディション」の18Kムーンシャインゴールドモデルに触れたい。本作のベースとなったのは、月面着陸を記念して1014本生産された18Kゴールドモデル(Ref.BA 145.022)。オメガは同モデルの外装を見事に復刻した。まず見るべきはブレスレット。オメガはこのモデルのためにわざわざ新規で、オリジナルそっくりのブレスレットを起こした。加えて、オリジナル同様にインデックスはブラックオニキスだ。改良点としてはベゼルをバーガンディーのセラミックスに改めたほか、ムーンシャインゴールド仕上げの文字盤からは、劣化防止のクリア塗装が省かれた。ラッカーを吹かないというのはかなり大胆だが、文字盤は絶対に劣化しないという自信の表れだろう。
個人的なお勧めは、地味だが傑出した「デ・ヴィル トレゾア」である。18Kゴールド仕様の文字盤は、ベースがグランフー、ロゴは600℃で焼成するプチフーだ。SS版はこれほど凝っていないが、針とインデックスは18KWG製である。また、搭載するキャリバー8910はパワーリザーブが約60時間から約72時間に延びている。オメガ曰く「実際は76時間程度ある」とのこと。香箱真を細くして長いゼンマイを入れるのは最近のスウォッチ グループのお家芸だが、ベーシックなムーブメントに転用されるとは意外だった。またケースをSSに変更し、レギュラー化されたアクアテラ GMTは、アンダー100万円の時計とは思えないほど、凝った文字盤を持つ。エナメルを用いたPt版も魅力的だが、価格を考えるとSS版は驚くべき時計だ。
正直、このページではとても書き足りない2019年のオメガ新作。個別のモデルについては、今後フォローしていく予定である。
Ptの限定版がレギュラー化。スペックは同じだが、世界地図がエナメルからレーザー加工のチタンに変更された。外装の仕上げを考えると、価格は極めて戦略的である。“Wonderful Buy”。自動巻き(Cal.8938)。38石。2万5200振動/時。SS(直径43mm)。95万円。
直径40mmの薄いケースや、18Kゴールドで成形されたインデックスも従来に同じ。しかし、搭載する手巻きのCal.8910はパワーリザーブが向上した。非常に魅力的な時計である。手巻き。29石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm)。70万円。
マスター クロノメーター化したCal.9900を搭載した新作。文字盤はセラミックスのサンクダイアル(!)である。大きく重いが、装着感は許容範囲か。自動巻き。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径44mm)。30気圧防水。100万円。
既存モデルの仕様違い。ベゼルにオレンジセラミックス(!)が採用され、文字盤もセラミックコーティングがされたチタンとなった。ベゼルの生成方法はP131を参照。自動巻き(Cal.9900)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径45.5mm)。60気圧防水。86万円。
HARRY WINSTON (ハリー・ウィンストン)
2019年の新作は文字盤に注目すべし
今や、時計でも気を吐くハリー・ウィンストン。文字盤から保護用のラッカーを省くことで、同社は文字盤にも繊細な仕上げを施せるようになった。そんな同社の在り方を示すのが、HW ミッドナイト・ヨゾラだ。
ニューヨークの夜空をイメージした蒔絵を施したモデル。文字盤にはニューヨーク5番街にあるハリー・ウィンストン本店のファサードが表現される。中屋万年筆が付属。自動巻き(Cal.HW2008)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径42mm)。3気圧防水。世界限定10本。予価800万円。
スウォッチ グループの傘下に収まって以降、時計の質を大きく高めたハリー・ウィンストン。一例が、ダイヤモンドセッターの増員である。かつて、CEOのナイラ・ハイエックは「ジュネーブで優れた職人を集めるのは難しい」と筆者に語ったことがある。しかし、その名前が功を奏したのか、今や同社の時計工房には30名ものセッターがそろうようになった。
加えて、グループ企業とのシナジーもいっそう強化された。同社はETAやブランパン、そして外部のサプライヤーと共同で、新規にムーブメントを開発するようになったのである。これら余力が生み出したのが、ハリー・ウィンストン初のコラボレーションモデルとなる、「HWミッドナイト・ヨゾラ」だろう。ナイラ・ハイエックはこう説明した。「私もマーク・ハイエックも、ハリー・ウィンストンのペンを作りたかったのです。そこで中屋万年筆を見つけ出しました」。ダイアルに用いた蒔絵の質はまだ上げられるはずだが、ハリー・ウィンストンが蒔絵に取り組むとは意外だった。
個人的に面白いと思ったのは、「プロジェクト Z13」である。文字盤に注力する同社らしく、文字盤にはカーボンのオーナメントを加えたほか、一部の部品はブラックポリッシュされた。これは歴代Zシリーズの中で最も質感に富んでいる。 好調なセールスを反映して、ユニークなモデルを次々とリリースするハリー・ウィンストン。今の同社は、ブランド名抜きでも勝負できるだけの実力を十分備えている。
4つのトゥールビヨンを搭載した超大作。キャリッジは36秒で1回転。手巻き(Cal.HW4702)。95石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG(縦39.1×横53.3mm)。3気圧防水。世界限定10本。予価8825万円。
ケースにザリウムを使用するプロジェクト Zシリーズの最新作。外装は歴代随一だ。自動巻き(Cal.HW3202)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。直径42.2mm。10気圧防水。世界限定300本。予価270万円。