ブルガリのオクト クロノグラフは傑作だ
2019年は自動巻きクロノグラフ50周年です。どう思われましたか?
今の自動巻きクロノグラフは、基本的にセイコーの6139の発展系ですね。小さな自動巻きと、小さな垂直クラッチの組み合わせですね。セイコーでその直系を探すと9R。ただ2019年、セイコーは9Rバンザイをやらなかったですね。8Rにフォーカスした。8Rは6Rの文字盤側にモジュールを付けたクロノグラフですけど、モジュールの出来はホントいいですね。スペースに余裕があるから、設計に無理がない。ウブロの「ウニコ」と同じですね。
ちなみに50周年で面白かったのは、ゼニスの新しいエル・プリメロ。「エル・プリメロ 2」という名前で出てますけど、あんまり話題になっていないですね。見た目は昔のエルプリそっくりだけど、別物と言っていいほど進化しています。エルプリのクロノグラフ部分って、ゼニスの146を踏襲しているからかなり古いんです。その設計を生かしつつも、調整ネジを減らしたりして、すっきりさせた。ただし、僕は製品版を触っていないので語れるのはここまでです。
自動巻きクロノグラフで言えば、ブルガリの「オクト フィニッシモ クロノグラフGMT オートマティック」なんてどうですか?
マジな意味で、50周年をちゃんと祝ったのはこの機械かもしれません。極薄の自動巻きに、水平クラッチを合わせている。水平クラッチのレイアウトは天才的で、受けでクラッチのレバーを抑え込んで、ブレが出ないようにしているんですね。プッシュボタンを押して、その感触がしっかりしていることに驚いたけど、理由は設計がマトモだから、ですね。チタンのブレスレットも、バックルを完全に内蔵できるので装着感はかなりいいです。しかし、開閉にはコツが要りますね。それと、3時位置のプッシュボタンで時針を早送りできるのもいい。日付ないのはダメだ、なんてドイツのジャーナリストは言いますけど、薄型で日付付きは壊れますから、なくていいんじゃないですか。
あと、2019年はチューダーが目立った年でした。
ラグビーワールドカップのスポンサーになりましたしね。これで普通の人も知るようになった。あと、チューダーって、割と自由ですよね。シンガポールのジャーナリストであるSJXが、チューダー「ブラックベイ P01」を見て、これはチューダーにしか作れないよね、と語っていました。時計としてはものすごくマトモだから、遊んでもおかしなことにはならないんですよね。
今のチューダーが載せている56系の自動巻きはものすごくいいですよ。ロレックスの32には及ばないけど、実用機としては申し分ない。ちょっと厚いけど、ダイバーズウォッチに載せるならいいんじゃないですか。このムーブメントを載せたシャネルの「J12」や、ブライトリングの「スーパーオーシャンヘリテージ」も大いにありでしょう。フリースプラングだから、ガチガチぶつけても狂いにくいですしね。それと、巻き上げ効率は非常にいいです。デスクワークでも全然巻き上がる。
文字盤を見れば時計メーカーの実力は分かる
スポーツウォッチとレトロ調以外にトレンドってないんですか?
ないんじゃないですか?昔は明確にあったけど、ここ数年はあってなきがごとしですよ。ただ強いて言うと、カラフルな文字盤はトレンドかも。
H.モーザーの「フュメ」ダイヤルみたいなものですか?
そうそう。H.モーザーはあのグラデーションダイヤルが今やアイコンになりましたね。サプライヤーがいいので、おかしなことにならない。あと、他のメーカーも、こぞってカラフルな文字盤を作るようになった。青は当たり前になったし、今やグレーといった中間色も出せるようになりましたね。今後は、黄色とかオレンジとか、そういう出しにくい色が増えてくると思いますよ。そういう色にいち早く挑戦できるメーカーは、勢いがあると言っていい。
昔、文字盤を見れば時計メーカーの実力がわかるって言ってましたよね?
そうそう、文字盤で面白いことができる会社って、売れてて勢いがありますよ。クロノスでもそういう会社はずっと定点観測している。2000年以降、いろんなメーカーはまず自社製ムーブメントを作り、最新の工作機械でケースの出来を良くしたわけですよ。もうやることがないから、文字盤に手を入れるしかないわけです。
文字盤の良いメーカーには、どういう例があります?
定点観測しているのは、パテック フィリップ、F.P.ジュルヌ、ブルガリ、セイコー、ウブロ、グラスヒュッテ・オリジナルあたりですかね。パテック フィリップはケースも良くできているけど、何しろ文字盤がいいんですよ。特に女性用には面白い試みをバンバン入れている。F.P.ジュルヌも文字盤の仕上げは毎年良くなってます。
ブルガリとセイコーは今風のメッキではなくて、ラッカーを厚く吹く手法を進化させてますね。だけど、いわゆるポリラッカーみたいな、分かりやすい感じではなくて、ラッカーの厚みを深みに変えるような努力を続けている。あとウブロは、毎年のように面白い色をバンバン入れてますね。ウブロは本当に良くなりましたね。昔はあれれって仕上げもありましたけど、今や抜けがない。ただモデル数が多すぎて、僕らでさえも、もう追い切れませんよ(笑)で、グラスヒュッテ・オリジナルは今後注目ですよ。
小さなメーカーでいい文字盤を作っているのは、ヴティライネンかな。コンブレマインという会社を持っていて、いろんなメーカーに文字盤を提供している。2019年に発表されたブラックエナメルは自社製だったかな?ちょっと忘れたけど、この会社はいいエナメルを焼けますよ。F.P.ジュルヌも質の高い文字盤を作っていますね。「クロノメーター・ブルー」の文字盤なんて、他のサプライヤーは作れないですもの。ちなみにジュルヌはヴァシュロン・コンスタンタンなどに文字盤を提供していますね。
エナメル文字盤はどうなんでしょう?
エナメルは好みが人によって全然違うから、なんとも言えませんね。ただ一昔前のドンツェ・カドランみたいな、穴ぼつぼつのエナメルはなくなりましたね。質は相対的に良くなっている。それと、表面の研ぎ跡も目立ちにくくなった。フラットになりすぎて面白くないっていう意見もありますけどね。個人的に、エナメルでありだと思ったのは、ブレゲの「クラシック 5177」ですね。日付表示が付いていて、時計愛好家にはけしからんと言う人がいるけど、あの日付窓の処理はすごいですよ。エナメルを焼いて、日付窓の外周をレーザーでカットしている。あんなのができるんだと思いましたね。個人的に、5177はお勧めです。
後編へ続く
・時計は小さくならなかったが、薄くなった
・意外な伏兵、コード11.59 byオーデマ ピゲ
・長いパワーリザーブがトレンドだ
・LIGAが変える時計のパフォーマンス
・2019年の、国産メーカー4社はどうだったのか?
など・・・