高級時計に使われるケース素材
高級時計には、見る者に感動を与える仕上げが求められる。機能はもちろん、美観も重要なファクターとなるのだ。
目にする者に感動を与え得る、上質な素材とはどのようなものだろうか。極上の時計に用いられる高級素材について解説したい。
シルバー
独特の輝きを放つ「シルバー」は、嫌みのない質感でありながら高級感も携えており、幅広い層に支持されている素材だ。
金属の類では白く、和らかな光沢がある。柔らかさのある材質は加工も容易で、懐中時計がメインだった時代から多く使用されてきた。
デメリットとしては、空気中の物質などと反応して表面が黒ずんでしまう点が挙げられる。しかし、この性質を利用して陰影を強調する「いぶし処理」などは独特の趣を醸し出す。
自動巻き(Cal.Elite 679)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。シルバー925(直径45mm)。10気圧防水。世界限定250本。
ゴールド
多くの人々が憧れ、圧倒的な支持を得ている素材が「ゴールド」だろう。気品漂う美しい輝きと、市場的にも認められた価値によって、ラグジュアリーな雰囲気を放っている。
金の純度を示すカラット(karat=K)は、金の含有率を24分割で表したもの。つまり24Kは純度100%だが、これでは金属としては軟らかすぎるため、他の金属を配合して硬度を高めつつ美しさを保った、純度75%の18Kをケースに使用しているのが一般的だ。
さらに、主に18Kの金に、銀や銅、パラジウムなどを混ぜることで、イエローゴールド、ピンクゴールド、ホワイトゴールドなどと呼ばれる色合いへと生まれ変わり、異なる美しさを楽しめるようになっている。
手巻き(Cal.1400)。20石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径40mm)。3気圧防水。190万4000円(税別)。問/ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755
プラチナ
ゴールドの上を行く金属とされているものが「プラチナ」である。白金ともいわれる色合いは、ゴールドよりさらに重量感を増し、最上級の光沢感を持った高級素材として高い人気を博している。
加工がしやすく、美しさの他にも利点は多い。耐食性にも優れているので、プラチナを使用した時計は、長きに渡って愛用し続けられる。
プラチナは希少性の高い金属でもある。採掘量が少ないため、価格はとても高価だ。それゆえ、プラチナを使用した時計には高額なモデルが多い。
手巻き(Cal.9S64)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。プラチナ950(直径39mm)。日常生活用防水(3気圧)。1000万円(税別)。問/セイコーウオッチ Tel.0120-061-012
傷がつきにくいケース素材
一日を通して装着する腕時計は、常に摩擦や衝撃を受ける可能性にさらされているため、傷がつきにくい素材であることが望ましい。傷に強いケース素材を紹介しよう。
セラミックス
「セラミックス」は、金属よりも軽量ながら非常に高い硬度も備えた素材で、艶やかな色合いや滑らかな風合いも魅力のひとつだ。
その硬度は、一般的なステンレススティールと比較すると10倍以上といわれている。もちろん、金属ではないので錆びることも変色することもない。
ただし、加工するには高い技術が必要で、燃成過程などを経て製造するため、ケースの製造においては素材の価格と合わせて製造コストもかかってくる。
自動巻き(Cal.12.1)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。高耐性ホワイトセラミック(直径38mm)。200m防水。64万円(税別)。問/シャネル(カスタマーケア) Tel.0120-525-519
カーボン
軽さと高強度を合わせ持つケース素材として注目されているのが「カーボン」。重量は鉄の約1/4でありながら、その強度はおよそ10倍という優れた特性を持っている。
時計ケースのみならず、宇宙開発などにも使用されているカーボンは、一方で加工が難しく製造コストも高い。それゆえ、限られた高級時計でしか採用できなかったが、最近では加工技術の向上により、カジュアルな時計にも見られるようになってきた。
高強度でありつつも、割れやすいという欠点もある。しかし、その独特なテクスチャーは見る者の心を捉えて離さない魅力にあふれている。
自動巻き(Cal.G1747)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ48時間。カーボン(直径47mm)。10気圧防水。120万円(税別)。問DKSHジャパン Tel.03-5441-4515
ザリウム
「ザリウム」も傷のつきにくい材質として知っておきたい。ジルコニウムの合金で、さまざまな点で優れた素材である。
宇宙工学の分野でも頻繁に使用されるザリウムは、圧倒的な軽さと耐酸性、耐食性を備えており、時計ケースとしては最高の素材のひとつといえるだろう。
変形や摩擦にも強く、ビジュアル面においても極めて美しい光沢を帯びていることから、超高級腕時計の素材として用いられる。
自動巻き(Cal.HW3202)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。ザリウム(直径42.2mm)10気圧防水。世界限定300本。280万円(税別)。問/ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション Tel.0120-346-376
経年変化で味が出る素材
いつまでも変わらないことは、ケース素材としてひとつの大切な要素だろう。普遍の美しさを求める向きは多い。
だが一方で、変化が新たな価値を生み、よりかけがえのない存在へと昇華することもある。
経年変化によって独自の味わいを放つ素材について触れておこう。
ブロンズ
革製品やデニムなどでは一般的だが、時計のケースにおいても、時間の経過によって変わりゆく“エイジング”を楽しめる素材がある。
その代表的なものが、銅とスズの合金である「ブロンズ」だ。酸や塩分、湿気に反応しやすいため、使用しているうちに表面が黒ずみ、また汗や海水などを付着したままにしておくと、緑青(ろくしょう)と呼ばれる錆が表れる。ブロンズは、この独特な経年変化を楽しみつつ、高級感も兼ね備えた素材といえるだろう。
そのため、かつては高級時計には不向きとされてきたが、近年ではこうした経年変化も好まれる傾向にあり、ブロンズを採用した時計はトレンドの1つにもなっている。
自動巻き(Cal.BR-CAL.302)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。CuSn8ブロンズ(直径42mm)。300m防水。52万円(税別)。問/ベル&ロス ジャパン Tel.03-5977-7759
ケース素材も時計選びのポイントに
時計選びの基準はさまざまだ。ブランドのステイタス、ムーブメントの性能、あるいはシルエットやカラーなど、人それぞれに大切にする要素は異なるが、これからの時計選びのポイントとして、ケース素材にもぜひ視線を送ってほしい。