Cal.321の系譜を継ぐCal.1869
再びケースバックに話を戻すと、サファイアクリスタルを通して装飾が施されたムーブメントを鑑賞できる。サテン仕上げのブラックセラミックフレームには、ミッションが実施された日付(1968年12月/APOLLO 8, DEC 1968と表記)、そしてアポロ8号が月のダークサイドに入る直前に宇宙飛行士ジム・ラヴェルが放った名言「WE’LL SEE YOU ON THE OTHER SIDE(月の反対側でまた会おう)」がエングレービングされている。
ムーブメントには地板とブリッジに月面のテクスチャーを施して視覚的な魅力を備える一方、愛好家を喜ばせる要素も携えている。このモデルに搭載されているのは、1969年に月へ降り立った「スピードマスター」に採用されているオメガの手巻きムーブメントCal.321の系譜を継ぐクロノグラフムーブメントCal.1861をベースとしたCal.1869なのだ。
Cal.1861は現在でも「スピードマスター プロフェッショナル ムーンウォッチ」の旗艦モデルに搭載されているが、1861をオープンワークにしたCal.1869は今回の「アポロ8号」モデルが初採用となる。以前のモデルには自動巻きコーアクシャル クロノメーター認定Cal.9300が搭載されており、クロノグラフは2カウンターとなっていたのだ。
もちろん、Cal.1861にレーザー切削とオープンワーク加工を施したのは今回が初めてだ。そのムーブメントは、完全に巻き上げた状態で約48時間のパワーリザーブを実現。ストップセコンド機能はないものの、過剰な巻き上げの防止機構を搭載している。通常、自動巻きの時計を数カ月にわたってレビューした後では、毎日巻き上げる必要のない利便性を実感するものだが、今回のモデルは1日半以上使わない状態があっても精度を保っていたのが印象的だ。もちろん、この時計が持つ美しいルックスは時刻の表示と同じくらい重要な要素であり、仮に自動巻きムーブメントを搭載すれば、大きなローターによって装飾されたムーブメントの鑑賞が阻害されるであろうことは容易に想像できる。
優れた装着感を実現するストラップと尾錠
最後に、パンチング(これも、かつてのモータースポーツにインスパイアされたスタイルである)が施され、ダイアルのブラックとイエローを踏襲したレザーストラップについても触れておきたい。ストラップは表面と裏面をブラックレザー、その間にイエローのラバーを挟み込んだ3層構造。特殊工具によって設けられた穴から鮮やかなイエローが顔をのぞかせており、イエローのステッチと相まって、デザイン上のアクセントとなっている。ブラックセラミックスのピンバックルには、ポリッシュ仕上げでオメガのシンボルがエングレービングされる。小穴にはピンがしっくりと収まり、手首へのフィット感もいい。
オメガが提供する5年保証に加え、特別なボックスをセットにした「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」の価格は104万円。ヴィンテージを継承したデザインに、オープンワークやムーブメントの装飾、そして「スピードマスター」ならではの歴史的系譜──これらの要素を備えた時計を着用し、多くの人々が筆者と同様“月にいるかのような気分”になってくれることを願ってやまない。
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