A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス」にまつわる名前の由来を探る

 さて、「オデュッセウス」というモデル名は、ホメロスの『オデュッセイア』の主人公の名前から取られたものだ。『オデュッセイア』は10年にわたるトロイア戦争の終結の後、英雄オデュッセウスが故国イタケへの帰途に嵐に襲われ、さらに10年の漂流冒険を重ねる長編叙情詩。その苦難の10年を、時計開発の苦難の10年になぞらえたのである。

 が、しかし、だ。それにしても大袈裟じゃないか、という気がする。そんなにも悲壮な10年間だったのだろうか、とも思う。まぁ、あくまでも個人的な感想だけれども。でも同様の意見は方々からも寄せられているそうだ。

 それにもうひとつ、大きな疑問が「オデュッセウス」という名前が、1990年代のジャガー・ルクルトのコレクションにあったことである。つまり、同じリシュモン グループのジャガー・ルクルトがすでに「オデュッセウス」という名前を使用しているのだ。

Cal.L155.1 DATOMATIC

Cal.L155.1 DATOMATIC
まずフェイスのデザインが決められた後、それに合わせて新規に開発されたという新型ムーブメントCal.L155.1 DATOMATIC。A.ランゲ&ゾーネの特徴である大型日付表示「アウトサイズデイト」を3時位置に、それに匹敵する大型の曜日表示を9時位置に備える。また、スポーティーウォッチに必須である耐衝撃性を確保するため、振動数を2万8000振動/時に上げ、可動ヒゲ持ちを強固に固定し、さらにテンプ受けには頑強な両持ち式が採用された。加えて、衝撃によってローターが地板に接触するのを防ぐため、ムーブメント外周には複数のピンが埋め込まれた。

Cal.L155.1 DATOMATIC

 だから商標だとか、そのあたりをどうしたのかは分からないが、昔を知っていると少々戸惑ってしまう。しかも訊けば、モデル名の候補は100ほどもあったのだという。にもかかわらず、わざわざオールドファンには聞き覚えのある「オデュッセウス」という名前を選んだのだから、よほどのこだわりがあるのだろう。ともあれ、記念すべき25周年に発表された「オデュッセウス」は、その名前も含めて、A.ランゲ&ゾーネの大自信作ということだ。

 ところで、『オデュッセイア』とは旅の物語でもあり、たとえば筆者などは「オデッセイ」(「Odyssey」はギリシャ語「Odysseia」の英語読み)というとすぐに、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001: A Space Odyssey』が『2001年宇宙の旅』と翻訳されているのを思い浮かべたりもする。

 そのため最初に「オデュッセウス」というモデル名を聞き、実用的なデイデイト機能を見たとき、「これは旅の時計だ」と直感的に思ったのだ。それになにより、リュウズで日付と曜日を戻せることは、かつてのユリス・ナルダンのGMTモデルがそうであったように、時差のある海外旅行でこそ大いに役立つ機構ではないか。

 で、それだから、こう思うのだ。「オデュッセウス」がGMT針を備えたトラベルウォッチに進化すると、より良いのになぁ、と。そうすれば「オデュッセウス」という名前もよりシックリとくるし。そんなふうに思うのだが、いかがだろうか。

Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080


くまモン
福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。