広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
〝世界初〟を可能にした類を見ないサファイアの固定方法
毎年、定期的に来日するグレゴリー・ブルタン。今回お披露目なったのは、エクスカリバーのエクステンションモデル「エクスカリバー ブラックライト」だ。
1977年、スイス生まれ。ヌーシャテルのエンジニアリング・スクールで時計製造の理論を学んだ後、2002年にロジェ・デュブイに入社。自動巻きムーブメント、ミニッツリピーター、スケルトンムーブメントの開発などに携わった後、ムーブメント開発部門の責任者などを経て、プロダクト・ストラテジー・ディレクターに就任。「重要なのは、伝統に敬意を払いつつ、それを再解釈することです」。
一見、今までと同じだが、ムーブメント内部にサファイアマイクロチューブを差し込み、そこに特殊なペイントを施すことで、ブラックライトを当てるとバーが発光する。今のトレンドのひとつに発光があると思えば、ロジェ・デュブイが採用したのは時宜にかなっている。しかし、わざわざブルタンが来日するぐらいだから、ただ光るだけの時計ではないだろう。
「これはロジェ・デュブイにとって、新しい幕開けを示す時計だと思っています。今後、ロジェ・デュブイはさまざまな色を入れていくでしょう」。彼は話を続ける。
「2009年にコンテンポラリースケルトンをリリースして以降、私たちはこの分野のパイオニアであり続けています。今回は、色とアングルを強調しました」。なるほど、彼が言う通り、薄いサファイアをムーブメントの上に重ねることで、時計全体のエッジ感が強まっている。
しかし、あえてブルタンが来日した理由は、色やエッジが面白い以上に、この時計が、想像するよりも、はるかに難しい構成を持っているためだ。極薄のサファイアマイクロチューブは、一体成形されたのではなく、ムーブメントを縫うように固定されている。組み立ては難しいだろうし、強いショックを受けたら簡単に割れてしまうだろう。しかも5時位置を見ると、5本のマイクロチューブを、ダイヤモンドを配した軸のみで固定している。
「この部分の組み立てが一番難しいんです。それこそ複雑時計並みに、です。というのも、5本のサファイア製のバーを水平に固定しなければならないから。そのため、固定する軸の下に、サポートする強固な土台を設け、その上に真鍮製の軸を重ね、ムーブメントの外周から伸ばしたサファイアマイクロチューブを差し込んでいます」
では、耐衝撃性はどうやって担保しているのか? 軸は軟らかい真鍮製とはいえ、サファイアと噛み合った部分は、ショックを受けると簡単に欠けるだろう。
「バーと接触する部分には、ラバーを埋め込んでショックを吸収しています。当たり前のように思えるけれど、この技術が最も重要なポイントなんです」
ブラックライトを当てると輝く、エクスカリバー ブラックライト。サファイアマイクロチューブがなければ実現できなかったのは間違いない。しかし、むしろ驚くべきは、それを可能にした設計の妙ではないか。これだから、ロジェ・デュブイは面白い。
ムーブメントに、紫外線の下で発光するサファイアマイクロチューブを据え付けた新作。面取りがダイヤモンドカットなのは惜しいが、近年のロジェ・デュブイらしく、ムーブメント全面に施されるペルラージュは均一で、傷も見当たらない。自動巻き(Cal.RD820SQ)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径42mm)。3気圧防水。1290万円。