ハミルトンの「イントラマティック オートクロノ」は過去のモデルの雰囲気を上手く取り入れたツーカウンタークロノグラフである。2018年の販売当初は黒白ダイアルモデルのみの展開であったが、好評であったのか、翌19年には今回のテスト機でもあるブルーダイアルモデルが追加されている。今回は同作を「欲しい時計ランキング」の上位のモデルだと公言する気鋭のライター、佐藤心一氏がおよそ2週間にわたって着用。カラーリングが往年のレーシングカーの姿を想起させると興奮気味に伝える同氏による、インプレッションをお伝えしよう。
ハミルトン「イントラマティック オートクロノ」
自動巻き(H-31)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40mm)。10気圧防水。26万円(税別)。
インプレッション概要
まず記事を執筆するにあたり、今回のインプレッションで思ったことを簡単にまとめたい。
・今回のテスト機は過去に同社が手掛けた手巻きクロノグラフを自動巻きに改めて復刻したハミルトン「イントラマティック オートクロノ」のブルー版。ヴィンテージの雰囲気を上手く表現したデザインと渋い色合いを持つダイアルを40mm径のケースに収めている点が高評価。合わせられるタンカラーのカーフレザーストラップの風合いも良い。十分な実用精度と、安定したクロノグラフ動作で安心して楽しめる。種々のストラップへの換装も楽しめそうだ。
・ややケースに厚みがあって、腰高な装着感は改善の余地がある。デイト表示とクロノグラフ針のカラーは、サブダイアルのアイボリーに合わせるか別の工夫が欲しいところ。また、ケース径が36mmのオリジナルモデルにならって、もう少し小径に収めることができれば、さらにヴィンテージの雰囲気が生まれただろう。
1968年のクロノグラフAを復刻
ハミルトンのイントラマティック オートクロノは、1968年に発売され、“パンダダイアル”として親しまれた「クロノグラフ A」を復刻したモデルである。
同作では直径40mmのケースにブルー文字盤とアイボリーのサブダイアル、そしてタンカラーのレザーストラップを組み合わせた写真のモデル以外に、アイボリー文字盤とブラックのサブダイアル、ブラックのレザーストラップという組み合わせのモデルもラインナップされる。なお、以前には42mm径のケースに“逆パンダ”文字盤、パンチングメッシュの施されたレザーストラップの組み合わせも限定生産された。
イントラマティック オートクロノは約60時間のパワーリザーブを備えた自動巻きクロノグラフムーブメント、キャリバーH-31を搭載する。オーソドックスなツーカウンタークロノグラフらしく、9時位置側のサブダイアルが秒表示で、3時位置側のサブダイアルが30分積算計だ。また、6時位置にデイト表示を備える。
文字盤外周部のアイボリー部分の目盛りはタキメーターだ。注目すべきは文字盤上のブランドロゴで、現在ハミルトンが採用するものではなく、オリジナルであるクロノグラフ Aを踏襲し、当時の斜体ロゴが与えられている。
ハミルトンは多彩なラインナップを持つことで知られる。クロノグラフに限っても「ジャズマスター オートクロノ」のようなインフォーマル系をはじめとして、フィールドウォッチの「カーキ フィールド オートクロノ」やパイロットウォッチの「カーキ アビエーション パイロット パイオニア オートクロノ」などをそろえる。その中でイントラマティック オートクロノ、特に今回のブルーは、横並びの2カウンタークロノや、マットで渋さのあるブルーとアイボリーの色調が往年のレーシングカーを思い起こさせるモデルである。
操作感は良好
上側プッシュボタンでクロノグラフのスタート/ストップ、下側プッシュボタンでクロノグラフのリセットである。リュウズはねじ込み式で、ねじ込みを開放した状態で手巻き可能。なお、ハック機能付きで自動巻きは片方向巻き上げである。キャリバーH-31はETA7753をベースにしており、操作についてETA7750と大きく異なるのがデイトの変更方法で、10時位置のプッシュボタン(ピンなどを用いて押すタイプ)で早送りする。爪楊枝などの「適切な棒」さえあれば容易に操作できる。
リュウズのねじ込みはスムーズで、大きいリュウズは操作性に優れるし、デザイン上のアクセントにもなっている。プッシュボタンは、特にクロノグラフスタート時にはストロークが長めでやや重めの設定で、操作感を損なうほどではない。ことあるごとにクロノグラフを動作させてみたが、気になるポイント(操作ミスや動作不良)は生じなかった。
エイジングが楽しみなストラップ
合わせられるレザーストラップは、加工、着色に天然素材を用いたタンカラーのカーフ。新品状態でも魅力的であるが、使い込んだり、オイルアップしたりした際の風合いが楽しみな革質である。注意した方が良さそうなのは、明るい色合いで水分を吸いそうな革質なので、水濡れによるシミが目立ちそうな点だろう。
ヴィンテージモータスポーツやミリタリーの雰囲気を持ったモデルについて、筆者はストラップ交換をして楽しむのが好きで、イントラマティック オートクロノも「替えて遊びたい欲」が刺激されるモデルだ。そこで、手持ちのNATOタイプのストラップから合いそうなものを選んで並べてみた。イントラマティック オートクロノのラグ幅と合っていないのは恐縮だが、イメージを膨らませていただけたなら幸いである。NATOタイプ以外にも、ストック状態よりもドレス寄りのデザイン、パイロットタイプやラバーの物を合わせるのも楽しそうだ。もしこのモデルを入手したなら、ストラップコレクションがさらに充実してしまうのは間違いない。なお、同作のラグ幅は20mmである。
重心は高いがストラップがバランスを取ってくれる
ケース径を40mmとしたことで、文字盤全体とサブダイアルの位置及びサイズのバランスが良いし、デイトの位置も収まりが良い。文字盤のブルーは、少し色が落ち始めたデニムのような渋さのある色合いで、アイボリーのサブダイアルとタキメーターとの調和が良い。文字盤のマットな仕上げがヴィンテージの雰囲気を上手く表現しているし、派手さを抑えている点がこの時計のキャラクターを良く表していて好ましい。良い風合いのタンカラーのストラップも相まって、使い込まれたアメカジやレザージャケットと合わせたくなる雰囲気がある。
着用して街を散策してみた。厚さは実測14.6mmで数値上も手の持った感想も厚さが気になるが、ラグがベゼル側から伸びたようなデザインで、ケースサイドは薄め、ケースバックが膨らんだ形状であるため、着用してみると手に取った時よりも薄く見える。この辺りのバランスの取り方は上手いと感じた。ただ、重心は高く、ストラップを少しでもルーズに調整すると収まりが悪い点は減点対象だ。ストラップは新品状態からしなやかで着用感に優れる。
オリジナルを忠実に守るか、使い勝手を取るか
文字盤と針のコントラストが高く、屋外でも視認性が高い。蓄光はインデックスの外周側に小さく添えられ、光量も控えめなので暗所での視認性はいまひとつ。ここはオリジナルの雰囲気を損なわないことを優先したとすれば許容できる。
残念に感じたのはクロノグラフ針とデイト表示が真っ白な点である。クロノグラフ針をアイボリーとするとサブダイアルと重なった時の視認性悪化の問題が生じて悩ましいが、デイト表示はぜひともアイボリーにまとめてほしかった。また、オリジナルのクロノグラフ Aが36mmであるので、よりヴィンテージ感を高めた36mmもしくは38mmのモデルを期待したいが、このままの構成であれば厚さとのバランスを取るのが難しくなるだろう。
精度について
精度についても触れてみたい。イントラマティック オートクロノの日差に関しては十分に巻き上げてから平置きで+6秒/日、ワインダーにセット(巻き上げ・停止の繰り返し設定)した状態で+8秒/日を記録した。また、1時間の車の運転を含む6時間の外出に連れ出したが、同等の精度を維持している。自動巻きの巻き上がり量も(結論を出すにはもう少し検証を要するが)不足を感じることはなかった。
総評
税込みで約29万円のプライスタグは、近い構成を持つライバルと見比べて妥当な設定で、統一感のあるデザインにストラップの良質さで満足感が高そうだ。
実際に手にしてみて、ユースシーンのイメージが膨らむ時計であると感じた。例えば、休日のドライブに(可能ならば旧車に乗って)連れ出したくなるし、季節やその日の服装、あるいは乗る車に合わせてストラップを選んだりしてみたい。自分ならレーシンググリーンのNATOストラップなど合わせて、いつもの山道のラップタイムでも測ってみようか? イントラマティック オートクロノにはそんな想像に応えてくれる楽しさがある。
https://www.webchronos.net/features/42462/