エナメル文字盤にも色々な種類があるって本当ですか?/ぜんまい知恵袋〜時計の疑問に答えます〜

2020.06.07

Q:エナメル文字盤にも色々な種類があるって本当ですか?

A:大きく2種類に分けられます

独特の鏡面と光り方を持つエナメル文字盤は、一部の時計愛好家にとっては、大変魅力的な要素です。そして時計業界で使われるエナメルには大きくふたつの種類があります。

いわゆる“本物のエナメル”(七宝)は、金属製のプレートにガラス質の粉(釉薬)を載せて焼き上げたものです。高温で焼き上げるため、別名はホットエナメル。最近では、グラン フーと呼ばれることもあります。光沢感のある見た目を得られますが、歩留まりは悪く、また、立体的な文字盤や、ドーム状の文字盤に施すのは極めて難しいとされています。

地金の上に釉薬を載せ、高温焼成することでガラス質の表面を得る“狭義の”エナメルダイアル。釜にダイアルを入れた際、写真のように釉薬に火がつくことから「グラン フー」と呼ばれる。
Photograph by Yu Mitamura

一方、金属質のプレートに、塗料を載せて焼き上げたものもあります。見た目はホットエナメルに似ていますが、釉薬を使用する訳ではないのでガラス質で覆われているわけではありません。こちらはソフトエナメルと言われています。

扱いの難しいホットエナメル

“本物のエナメル”を好む愛好家は少なくありませんが、ショックを与えると割れる場合があり、また経年変化でもクラックの入る可能性があります。加えて、ギヨシェのような立体的な仕上げを持つ文字盤にホットエナメルを施すと、気泡が抜けにくく、よい仕上げを得にくいと言われています。

そのため、一部のメーカーは、あえてソフトエナメルを採用しています。ソフトエナメルで極めて質の高い文字盤を作っているメーカーには、ボヴェなどがあります。

広田雅将

高級時計でもあえてソフトエナメルを選ぶ例も

なお、フィリップ・デュフォーの傑作「シンプリシティ」の一部モデルは、ローマンインデックスを持つ、エナメル風の文字盤を持っています。意外なことに、これはソフトエナメル製。あえてデュフォーは選んだ理由を「今や本物のエナメルは得にくくなったため」と説明します。現在、各社の製作するエナメルの質は大きく上がりましたが、一昔前は、質が理由でソフトエナメルを選んだメーカーや時計師は少なくなかったのです。


現代スイスエナメルの真実(前編)

https://www.webchronos.net/features/32747/
現代スイスエナメルの真実(後編)

https://www.webchronos.net/features/32766/
「アトゥム エナメル」に搭載されたドンツェ・カドラン快心の1枚

https://www.webchronos.net/features/11385/