広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
レゾナンス機構とは私にとって魔法のようなものだ
昨年、傑作「クロノメーター・レゾナンス」のモデルチェンジを予告したフランソワ-ポール・ジュルヌ。その言葉通り、F.P. ジュルヌは新しいレゾナンスを発表した。基本的な構成は既存モデルに同じ。しかし、香箱がひとつになったほか、輪列には、F.P. ジュルヌのお家芸であるルモントワールが加わった。
現代を代表する独立時計師のひとり。1957年、フランス生まれ。時計学校を中退後、77年に時計の修復を始める。82年、初のトゥールビヨン付き懐中時計を製作。89年、ヴィアネイ・ハルターなどと共にTHA社を創業。96年、オリジナルムーブメントの開発に着手し、99年に初のコレクションをリリース。その独創性はしばしば「21世紀のブレゲ」と例えられる。
ふたつの駆動系の振動を同期させるF.P. ジュルヌのレゾナンス。そもそも論になるが、ジュルヌはなぜ共振すると考えているのだろうか? 振動とは聞いているが、何が重要な要素なのかは、明確には聞いていない。「レゾナンスには、地板を通して振動を伝えること、テンプの距離を近づけて共振させることのどちらも重要だ。だが、テンプを遠ざけることもある。というのも、テンプが近すぎると、同期に悪影響を及ぼすエアクッションを生むことがあるからだ」。ちなみにレゾナンス機構自体は、前作とほとんど変わりない。テンプの位置を調整する機能も、そっくり残された。
「新しいムーブメントを作る時には、調整の可能性を持つ必要がある。そのため今回も、この機能を残した。テンプの適切な位置が見つかると、それぞれの時計は同じように調整される。ふたつのテンプが近すぎるのはダメだ。20年の経験から、テンプの引き起こす空気の乱流はレゾナンスにとって有害であることを学んだ」。前作との違いは、テンプが近すぎると精度に影響が出ることを、より明確にしたことだろうか。
興味深いのは、新しいレゾナンスが単独香箱で動くことだ。各輪列に安定してトルクを供給できるが、動力を分岐するにはディファレンシャルギアが必要になる。「香箱をひとつにまとめたのは横からルモントワールにアクセスしたかったからだ。主ゼンマイのトルク管理が難しかったからではない。だが各輪列に動力を分岐するにはディファレンシャルギアが必要になる。主ゼンマイのトルクは1127g/mmだ」
もっとも、単独香箱にはもうひとつのメリットがある。香箱がひとつになった結果、リュウズの位置が変更されたのである。ジュルヌも「操作性のためにリュウズの位置も変えた」と明言する。
しかし、なぜジュルヌを含めて、多くの時計師は、これほどレゾナンスに魅せられるのか? 他の時計師については正直分からないと述べてジュルヌはこう語った。「私はこのシステムを魔法のようなものだと思っている。だからこそ、レゾナンス機構を40年来研究してきた」。ジュルヌらしい率直な物言いだが、彼が20年前にレゾナンスを完成させたことは紛れもない事実だ。そんな彼の作り上げた最新作は、傑作と呼ぶに相応しい完成度を備えている。
1秒ルモントワールを加えた新型クロノメーター・レゾナンス。巻き上げおよび時刻合わせのリュウズを2時位置に移動することで操作性も改善された。内外装の仕上げも申し分なし。手巻き(Cal.1520)。62石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間(ルモントワールの作動時間約28時間)。Pt(直径42mm、厚さ11mm)。30m防水。1260万円。
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