売れ筋はトップブランドの定番&限定モデルに集中
とはいえ、オンライン販売を行っているすべての時計ブランドがオンライン販売で目覚ましい成果を上げられたわけではない。
売れ筋は、不動の人気を誇るトップブランドの定番モデルや限定モデルだという。
実際に、オンライン販売が好調と伝えられるのも、ブランド名を聞いただけで定番モデルがすぐ頭に浮かぶトップブランドの定番や限定モデルである。
つまり、時計の実物に手を触れることができないオンライン販売では、消費者は冒険はしない。魅力や品質、価値に揺るぎのない、絶対に後悔のない1本を選ぶ。これまでとは違う堅実な価値観で時計選びを行う。この傾向はこれから先、何年も続くだろう。
オンライン販売がブランドの淘汰を加速する
だから高級時計ブランドは、この事実を大前提に今後のビジネスを展開しなければならない。これが今回の危機の最大の教訓だ。
そして、高級時計ブランドにとってアフターコロナ時代の最大の目標は、「オンラインでも安心して買える」「オンラインでも、どうしても欲しくなる」絶対的なブランド力を持つことだ。これができないブランドは、新型コロナウイルス感染拡大でオンライン販売の比重が高い状況が続けば、おそらく淘汰されてしまうだろう。
高級時計ビジネスはブランドビジネスであり、ブランド力が最も重要なのは当然のこと。だがオンライン販売では、これまで以上のブランド力が必要になる。
必要なのはやはり「魅力的な物語」
では「絶対的なブランド」の確立に不可欠なものとは? それは歴史ある老舗ブランドも新進ブランドも問わず、ファンにならずにはいられない「魅力的な物語」だ。
しかし、その物語をしっかりと分かりやすく消費者に伝えなければ、絶対的なブランドバリューの確立はできない。そのためには、あらゆる人に広くアピールする、物語を伝える“場”をつくることがとても大切になる。
https://museum.seiko.co.jp/
その意味で、去る8月19日、東京・銀座に移転リニューアルオープンした「セイコーミュージアム 銀座」(旧セイコー時計資料館)」は、絶対的なブランド確立と、未来のセイコーファンを育てるために大きく寄与する素晴らしい施設だ。
オンライン予約をしてオープン当日、子どもを連れて一般客として訪れたが、かつての資料館とは違い、海外からの観光客も含めてあらゆる人に分かりやすいカタチで時計やセイコーの歴史と魅力を体感できる場所になっている。銀座は日本の象徴のひとつであり、セイコーにとっても特別な場所でもあり、その意義と価値は計り知れない。
このミュージアムは、社名であり総合ブランドである「セイコー」はもちろん、すでに独立ブランドとしてグローバル展開し、多くの海外時計愛好家の心をもつかんでいる「グランドセイコー」、さらには年々存在感を高めつつある「プロスペックス」の時計業界におけるブランディングに大きく貢献するだろう。
このコラムの読者の方にも、ぜひ一度訪れることを心からオススメしたい。
なお、セイコーウオッチの歴史をまとめた『THE SEIKO BOOK』(徳間書店刊、絶版)の編集担当としては、グランドセイコーに象徴されるセイコー独自のデザイン文法「セイコースタイル」の解説、グランドセイコーの歴史のより詳細な解説、ダイバーズウォッチに秘められた独創的な技術など、常設展示は無理だろうが、ぜひ企画展のカタチで今後発信されることを期待したい。ただそれは、すぐ近くにある「和光」の2階フロアの方がスペースも広く、よりふさわしいかもしれないが。
渋谷ヤスヒト/しぶややすひと
モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、その回数は気が付くと25回。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。
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