芸術的なブルーダイアル
文字盤はそれ自体がアート作品だ。オデュッセウスでは、ダイアルと6時位置のインダイアルそれぞれの外周に“アジュラージュ”と呼ばれる溝を刻む仕上げが施され、それぞれの内側はザラついた粗い質感に仕上げられている。バーインデックスはホワイトゴールド製で、ダイアルの中心に向かって傾斜。断面はM字型になっており、正中線に沿って蓄光塗料が塗布されている。
また、サテン仕上げのミニッツトラックがダイアルの縁を取り囲んでいるが、これは実用的でありA.ランゲ&ゾーネとしては珍しいデザインと言えよう。このミニッツトラック上に赤く記された60の数字はスポーティーな印象を与えるとともに、希少なアニバーサリーモデルのエナメルダイアルで用いられる赤い12の数字を想起させる。
新たに、2窓式アウトサイズデイトの反対側にはこれと同サイズの曜日表示をレイアウト。また意外と見落とされがちではあるが、このディスプレイにはダイアルと同色のディスクを採用。配色を統一することにより、ダイアル全体が美しく調和している。ここで使用されているフォントが、ダイアルに記されたブランドロゴと同じであるのもポイントだろう。
今回、A.ランゲ&ゾーネは曜日表示の機構を新たに開発しただけではない。アウトサイズデイトをダイアルの外側に配置するため、その機構をも再設計したのだ。表示部分を可能な限り大きくするために1の位にはリング状のパーツを採用し、10の位も以前の十字形からディスクに変更。1の位を表示するリングはムーブメントの外周に配置されており、0から9までの数字をそれぞれ2つずつ記している。
アウトサイズデイトと曜日表示は12時間で1回転する歯車によって進む。その動きは1日に360度回転する24時間ホイールに伝達。この歯車が直接、曜日表示を進めるとともに、アウトサイズデイトのそれぞれのディスクを制御するプログラムホイールも動かす。プログラムホイールが1の位の輪列に動力を伝え、1日に1ずつ進むようになっているのだ。
例外は31日から翌月に移行するときで、この場合はプログラムホイールの欠けた歯によってスキップする仕組みになっている。また、このホイールは10の位のディスクに10日ごとに関わるが、3の数字がブランクに移り変わるときのみ、10日ではなく2日で切り替わるようになっている。
デイトを修正するために、A.ランゲ&ゾーネはふたつのプッシュボタンを、リュウズプロテクターと見間違えるようなユニットに統合。上部のプッシュボタンは日付を、下部は曜日をそれぞれ進められるようになっているが、操作は簡単で、確かなプッシュ感があるので意図せずに操作してしまう可能性はほぼないだろう。
また新たな設計により、リュウズを時計方向または反時計方向に真夜中のポジションで回転させることで、デイトと曜日両方の表示を進めたり戻したりできるため、誤操作による故障を招く心配もない。このカレンダー機構は合計99個のパーツで構成されている。
自動巻き機構からテンプまで新しくなったムーブメント
A.ランゲ&ゾーネは単にカレンダー機構を再設計しただけではない。ムーブメントは、オデュッセウスのために特別に設計されているのだ。キャリバーL155.1 DATOMATICは片巻きのローターを備え、約50時間のパワーリザーブを実現するムーブメント。32.9mmの直径はこの時計のサイズにぴったりで、自動巻き機構に加え、スポーツウォッチに必要な機能も備えている。
たとえば毎時2万8800という振動数。これにより衝撃や振動が加わっても、精度に影響を及ぼしにくくなっている。高振動で空気抵抗を最小限に抑えるべく、設計段階では従来のようなチラネジやテンプの上に錘を置くタイプではなく、偏心錘を埋め込み型にする手法がとられている。
また、A.ランゲ&ゾーネはテンプの堅牢性を高めるためにベアリングも新たに設計。片側だけで支えられているテンプ受けの代わりに、DATOMATICのテンプはブリッジによって両側でネジ留めされている。そしておなじみのスワンネック型緩急針は、水平ではなく、垂直の偏心ネジを用いた同様の構造に差し替えられている。
装飾については、時をかけて磨き上げてきた技術がしっかりと用いられている。テンプ受けのブリッジにはフラワーモチーフをエングレービング。エッジは面取りとポリッシュ仕上げが施され、ネジは青焼きされている。3/4プレートとガンギ車の軸受け石にゴールドシャトンを用いるなど、時計の中心部分はしっかりと伝統的な手法で表現。
その一方でグラスヒュッテ・ストライプの幅は、通常よりもやや幅広だ。すべてのディテールには非常に高度な装飾技法が用いられ、A.ランゲ&ゾーネのタイムピースに求められるクオリティで仕上げられている。
着用シーンを広げる、真のランゲウォッチ
結果は実に素晴らしいものだった。なぜなら、テストしたオデュッセウスは、日差わずか1秒だったのだから。テスターでも高い精度が確認され、完全に巻き上げられた状態では日差+1.1秒という結果に。振り角と歩度は24時間後には大幅な減退が見られたが、自動巻きの時計なので大きな問題ではないだろう。
むしろ重要なのは装着感だ。メタルブレスレットの場合、妥協しなければならないこともあるが、この新しいブレスレットは手首に滑らかにフィットし、毛を挟んでしまうこともない。前述のクイック調整機構に加え、ブレスレットの長さ調節も容易で、それぞれのリンクの背面と外側にあるふたつのクイックリリースボタンによって、個々のリンクを外せるようになっている。
またA.ランゲ&ゾーネは、ブレスレットとクラスプのデザインも変更。バックルに設けられたエクステンションシステムとブレスレットの構造は、パイロットクロノグラフ向けにIWCによって考案されたものだ。
そして、クラスプのヒンジの内側にある穴の周囲がポリッシュされていないことを除けば、全体を通して仕上げも完璧だ。面取りとポリッシュ仕上げが施されたエッジは、高級時計でおなじみの特徴だが、A.ランゲ&ゾーネもこれに則り、ムーブメント、ケース、ブレスレットにこれらの処理を施している。ポリッシュ仕上げがサテンの表面との美しいコントラストを成し、5連のステンレススティール製ブレスレットにスポーティーな雰囲気を与えている。
つまり、オデュッセウスは真のランゲウォッチであり、ひと目でそれと認識できる完成度を誇っている。それは、ムーブメントに用いられている技術力と、職人技によって具現したクオリティの高い仕上げの賜物。
グラスヒュッテの工房が初めて量産するステンレススティール・モデルにより、ランゲウォッチの着用シーンは大幅に拡大した。盛り込まれた数々の機能により、海辺だけなく、湖畔で過ごすときにもぴったりの1本に仕上がっている。
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