食わず嫌いはもったいない! ファーブル・ルーバ「スカイチーフクロノグラフ」/気ままにインプレッション

2020.10.10

今回レビューを行うのは、ファーブル・ルーバの「スカイチーフクロノグラフ」だ。同社は、2016年に日本での展開を再開し、アクションヒーロー番組やスポーツ選手をはじめとした各所とのタイアップを通じ、アクティブユースを強調してきた。そのような中、同社としては異色ともいえるドレッシーな本作にどのような魅力があるのか、実際に手にした感想を交えてお伝えしていきたい。

ファーブル・ルーバ「スカイチーフクロノグラフ」

スカイチーフクロノグラフ

半ツヤ有のブラックダイアルとスレートグレーのインダイアルが上品さを醸し出している。シンメトリーなデザインは、バランスが良いだけでなく、シンプルで判読性にも優れる。
野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima

 同社は1737年創業と、現存するブランドとしてはかなりの老舗である。それゆえ多くの技術的、デザイン的な資産を有していることが強みだ。現行のコレクションは、過去のアーカイブ作品を現代的に解釈し、アップデートを加えたモデルが多い。「スカイチーフ」コレクションも例外ではなく、その起源は1956年発表の「シーチーフ」までさかのぼる。

「シーチーフ」の哲学である「フォーマルなデザインと実用性の両立」を守り続け、ドレッシーさとタフさを持ち合わせるのが、「スカイチーフ」コレクションということだ。そして、そのクロノグラフ搭載モデルが、今回のレビュー対象である「スカイチーフクロノグラフ」だ。

スカイチーフクロノグラフ

腕周り16.5cmの筆者だが、腕への収まりは良好だ。ケースとストラップの隙間も小さく、ラグからストラップへ続くラインが綺麗に流れている。


手に入れた感動を増幅させる“びっくり箱”

 時計を購入し、初めて手にするときの高揚感は、何物にも代えがたいだろう。だが実際は、購入後、時計よりも前にまず箱を目にする。通常、時計の内箱は立方体で二枚貝のようにパカッと開けるものが多いが、このモデルに付属するものは筒形だ。継ぎ目のようなものも見当たらない。

 しばし眺めた後、側面の突起に気付き押してみる。「カシュウゥゥゥ...」という音と共にゆっくりとせりあがる「スカイチーフクロノグラフ」。予想だにしなかったギミックに、思わず声をもらしてしまう。時計を店頭で購入する際、その場で着けるか、あるいは箱に収めたままとするか訊かれることがあるが、このモデルに関しては是非、箱に収めたまま持ち帰っていただきたい。初対面がより感動的なものとなるに違いない。たかが箱かもしれないが、そこには保護や保管を目的としたものを超えた意味が込められている。

スカイチーフクロノグラフ

ポップアップ式の内箱は、時計との対面をより感動的なものにしてくれる。個人により考えの差はあるだろうが、新しい時計を迎えるというのは特別なことである。その瞬間を少しでも思い出深いものにしようという、ブランドの心遣いが感じられる。


オリジナリティの光る実用的なデザイン

 外観を見ていく。直径43mm、厚さ16.1mmのケースは迫力満点だ。実際に手のひらに乗せた「スカイチーフクロノグラフ」は、今まで筆者が所有してきた、どの時計よりも大きく厚かった。普段小さめの時計を好む腕周り16.5cmの筆者が、このモデルを正当に評価できるのか。にわかに不安が募る。

 なお、この厚みはムーブメントによるところが大きいだろう。ETA7753をベースに12時間積算計をオミットしたものが搭載されている。汎用ムーブメントへの賛否がある中、このような選択をしたのは、同社が実用性を重んじているからに他ならないだろう。

 多くのブランドが長年にわたって証明し続けてきた信頼性と、一般的な工房でも修理対応可能なメンテナンス性は、“計器”としての時計に欠かせないものである。

 このモデルは、いわゆるレトロフューチャーなデザインである。それを象徴する四角いインデックスや14角形のベゼルは、同社が1970年代に発表した「シースカイ」にも見られる特徴だ。当初画像を見た限りでは、ただユニークなだけだと思っていたが、初めて実機を見た瞬間、そのイメージは崩れ去った。

スカイチーフクロノグラフ

特徴的な14角形のベゼルに光が当たり、シルエットが浮かび上がる様はこのモデルが見せる魅力的な表情のひとつだろう。ヘアライン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせたケースは、全体を薄く見せることに寄与している。

 左右対称の整ったデザインもさることながら、祖先にあたる「シーチーフ」の哲学、「フォーマルなデザインと実用性の両立」を実直に体現していたからだ。レトロフューチャーデザインだからと、復刻やオマージュと一緒に語るべきではない。これは同社のデザインが、70年代に確立したということを表しているのだろう。事実、同社の他コレクションにも共通した特徴がみられる。

 ダイアルは半ツヤありのブラックだ。通常ブラックダイアルでは、フォーマルさを強調すればツヤ有に、実用性を重視すればパイロットウォッチのようなマットを採用することが多い。このモデルに使用されているブラックは、ちょうどその中間であり、両者のいいところ取りをした結果であると言える。鏡のように周囲の風景を映し出すが、ビカビカと自ら光を反射するほどではない。ここからも「シーチーフ」の哲学を感じ取ることができる。

 ダイアル上に花を添えているのが、スレートグレーのインダイアルだ。3時位置には30分積算計が、9時位置にはスモールセコンドが配置されている。どちらもサンレイ仕上げとなっているが、それぞれの針はホワイトに塗装され、しっかりと視認できるように配慮されている。ダイアル外周にはシルバーのチャプターリングが配されており、大型のダイアルをぐっと引き締めている。

 6時位置には日付表示窓がある。より一般的な、3時位置に窓がある時計は、長袖を着ていても袖口から日付を確認できるという利点がある。ではこのモデルの場合はどうか。16.1mmの厚みを持つケースを袖口に収めるのはなかなか難しいだろう。それであれば、3時位置のメリットを享受できないため、シンメトリーなデザインとなる6時位置に窓を置いたことは、ベストな選択であったと感じる。

スカイチーフクロノグラフ

凸型のインデックスは光を受けてきらめき、斜めに立ち上がったチャプターリングは、あらゆる角度からの視認性を向上させている。上品さと実用性を両立させたデザインである。

 特徴的な四角のインデックスは、上面にスーパールミノバが塗布されており、暗所での実用性も確保されている。また、凸型となっていることにより、角部が多くキラキラと光を反射し、日中でも抜群の視認性を発揮する。

 ケースは、シリンダー型の上にアーチ状のラグを渡したような独特の形状をしている。これもただユニークなだけではない。ケースサイドがポリッシュ仕上げとヘアライン仕上げの二層となることで、数値ほどの厚みを感じさせない効果がある。

 上面から見た際も、ヘアライン仕上げされた幅広のラグがケースから緩やかに伸びているため、やはりケース幅の大きさを感じさせない。力強さと優雅さを兼ね備えたラグも、「シーチーフ」から続く哲学に合致している。

 裏蓋は実用性を意識したソリッドバックだ。中央に刻まれたブランドロゴは、ねじ込み式ながらケースに対して真っすぐに配置されている。このようになっているのは、テスト機だからというわけではない。

 細かな部分ではあるが、あらぬ方向を向いているよりも気持ちがいい。もちろん、気にされない方もいることだろう。だが、“こんなところにまで気をかけて作っている”という姿勢にこそ、好感が持てるというものだ。神は細部に宿る。

スカイチーフクロノグラフ

ケース側面には、クロノグラフ用のプッシャーとリュウズが配されている。プッシャーに施されたチェッカリングや大型のリュウズには、操作性への配慮が感じられる。カーブサファイアクリスタルと優雅に流れるラグが、非常にドレッシーだ。

 ストラップは、ケースに負けじと厚みのあるものが装着されている。細かいシボのあるブラックカーフレザーに、明るいブラウンのステッチがタフな印象をもたらしている。装備されるピンバックルは大型のものだ。ツク棒は平型であるため、ストラップを他社製に交換する場合には要注意だ。

 ケースへの取り付け位置(ラグ穴)は、ラグの先端ではなく、根元寄りとなっている。こうすることでケースとストラップの隙間が詰まり、一体感を醸成している。