2018年以降、年に一度のスペシャルモデルとして毎年発表されている「シックスティーズ アニュアルエディション」。その2020年版は、ダイアルに氷河をイメージしたグレイシャーブルーを採用し、新鮮な魅力を放っている。今や定番となったブルー文字盤の中でも、特に高い完成度を誇る同作を、もう一度見ていこう。
Text by Mark Bernardo
Edit by Yuzo Takeishi
2021年2月1日掲載記事
かつてない盛り上がりを見せるブルーダイアル
ブルーダイアルの時計は、その目新しさから一躍主流となり、最近ではブルーがラインナップされていない人気モデルやコレクションを見つけるほうが難しいくらいだ。パウダー感のあるパステル系からツヤ感のある濃いブルー、さらには深みのあるネイビーやムーディーなインディゴまで、今やブルーダイアルの表現は実に多彩。しかも「自社のブルーは特別である」とアピールするブランドも多いので、ブルーダイアルの新作が登場するとウォッチコミュニティが注目し、まるで特別なイベントであるかのような盛り上がりを見せる。
グラスヒュッテ・オリジナル「シックスティーズ・クロノグラフ アニュアルエディション」
グラスヒュッテ・オリジナルが2020年に発表した「シックスティーズ アニュアルエディション」は、印象的なグレイシャーブルーのダイアルを備えている。自動巻き(Cal.39-34)。51石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径42.0mm、厚さ12.4mm)。3気圧防水。94万円(税別)。
そんななか、複雑時計を製造する実力や伝統的なデザインを携え、最近では独特な色味を持ったダイアルの時計を展開することで知られるドイツのマニュファクチュール、グラスヒュッテ・オリジナルが、ステンレススティール製ケースのバイコンパックスクロノグラフである「シックスティーズ」コレクションから2020年に発表されたモデルは特にダイアルのカラーという観点において高い完成度を誇っていた。それが、グラデーション仕上げの「グレイシャーブルー」ダイアルを採用した「シックスティーズ・クロノグラフ アニュアルエディション」だ。
まず、氷のような表情を見せる魅力的なダイアルから、このモデルの検証を進めていこう。18年と19年にそれぞれリリースされた、フォレストグリーンや、燃えたぎるようなオレンジと同様、グレイシャーブルーのダイアルは、ドイツのフォルツハイムにあるグラスヒュッテ・オリジナルのダイアル製造工房で、熟練した職人たちによって作られている。
サンレイ仕上げは、最終的にドーム型にプレスされる前に施され、その後ガルバニック処理される。次に、ダイアルにダークブルーのラッカーをスプレーし、外周を暗くしてから全体にライトブルーの層を吹き付け。最後に炉で焼成するとグラデーション効果が現れ、1枚1枚のダイアルがユニークな表情に仕上がるというわけだ。
1960年代を踏襲したデザイン
「シックスティーズ・クロノグラフ」は1960年代モデルのデザインを踏襲しており、かつては「セネタ シックスティーズ」と呼ばれていた。しかしグラスヒュッテ・オリジナルは、サブファミリーが独自のアイデンティティを築き上げたことに気づくと、より現代的なルックスを持ったセネタコレクションから独立させたのだ。
「シックスティーズ」は、東西ドイツ統一時に合併してグラスヒュッテ・オリジナルを立ち上げたいくつかのウォッチメーカーが、1960年代に製造していた「スペジマティック」に着想を得たモデル。12時と6時のカーブしたアラビア数字インデックスやシンプルな針、細いバーインデックスなどは、ミッドセンチュリーモデルに由来していることが分かる。そして、小さなノッチを刻んだリュウズや、それに隣接するポンプスタイルのプッシュボタンには、1960年代からの影響が見て取れる。
ケースの直径は42mm。1960年代当時のモデルと比較すると大きいが、スリムなベゼルによって、サイズ感はやや抑えられているように感じる。サファイアクリスタル製の風防は外周がドーム型、トップがフラットになっており、時計にモダンな雰囲気を与えている。
そしてケースの表面は全体的にポリッシュ仕上げを施し、また随所にファセットを効かせることにより、グラデーションのダイアルや、光沢のある針やアワーマーカーとの調和を見せている。丸みを帯びた爪のようなラグはケースから突き出しているが、実に快適なフィット感を実現する。
エレガントなデザインが目を引くダイアルデザイン
ダイアルデザインはバランスがよく、12時側にはエレガントなグラスヒュッテ・オリジナルのロゴ、6時のインデックス上部には「Glashüette I/SA」、さらにインデックスを挟むように「Made in Germany」の表記を二分する形で表記し、3時位置のスモールセコンドと9時位置の30分積算計は、それぞれ凹型になっている。
またルーペで観察すると、分針とクロノグラフ針はサファイアクリスタル製風防とドーム型ダイアルのカーブに沿うよう、わずかに湾曲していることが分かる。このモデルは1960年代の時計に着想を得ており、必ずしも判読性に優れているわけではないが、時分針の先端にはわずかにスーパールミノバを塗布。
このディテールは「シックスティーズ・クロノグラフ」唯一の夜光処理であり、アワーマーカーには夜光処理が施されていない。インダイアルにはグラデーションとともにわずかなスネイルパターンを採用。そしてインダイアルの数字は、ファンキーな雰囲気を醸し出す12時と6時のインデックスとは異なり、一般的なサンセリフタイプとなっている。
エレガントなフェイスに比べ、ケースバックはやや工業的な雰囲気を持った仕上げとなっており、サファイアクリスタルを囲むリングには、それを固定するビスが存在感を放っている。このケースバックから確認できるのはCal.39-34。「シックスティーズ アニュアルエディション」では初採用となる自動巻きクロノグラフ・ムーブメントで、40時間のパワーリザーブを確保している。
名機Cal.39-22ベースのクロノグラフムーブメント
またムーブメントには、ジュネーブウェーブにも似たグラスヒュッテストライプを施した3/4プレートや、スワンネック緩急針といった、ドイツ製らしい美しい装飾も。スケルトン加工を施し、グラスヒュッテストライプによって強化されたローターには21Kゴールドの錘を用いており、さらにセンターには「GG」ロゴを配すことで、ムーブメントの美しさをさらに昇華させている。そしてクロノグラフ機構だが、これは自社製のキャリバー39-22にデュボワ・デプラのモジュールを組み込んだもので、振動数は2万8800振動/時となっている。
2020年に発表された「シックスティーズ・クロノグラフ」のストラップは、これまでのアニュアルエディションとは異なり、コントラストのついたライトグレーのステッチを施した柔らかなヌバックレザーを付属。尾錠はスティール製でダブルGのロゴをレリーフで配しており、しかも興味深いことに、ケースのようなポリッシュではなく、サテン仕上げとなっている。
ストラップのカラーはダイアルの落ち着いたブルーに近く、装着感も良好だ。レトロかつコンテンポラリーなルックスによって、目を惹き付けつつも控えめな印象を与えるこのモデルは(適切な表現ではないかもしれないが)間違いなくクール。年に一度のスペシャルエディションが、2021年はどのような形で続くのか、実に楽しみである。
Contact info: グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 Tel.03-6254-7266
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