薄さと立体感をもたらしたドーム風防
また、風防も立体的なドーム状になった。それを強調するためか、オメガの宣材写真は、風防の盛り上がりを強調するような光を入れている。なお、ドーム状のサファイア風防を採用したにもかかわらず、ケースの厚さは13.85mmと、前作に比べて0.8mmも薄くなった(SSモデルの場合)。その結果、文字盤外周の見返しは薄くなり、斜めから見た際の見栄えは一層良くなった。個人的にはドーム風防よりも、見返しを薄くした点を評価したい。
加えて、風防を支えるフレームを薄くすることで、文字盤の開口径は29.5mmから30.4mmに広くなった。わずかなモディファイにもかかわらず、このモデルが、極めてアンティーク風な見た目を持つ理由だ。「細身」になった見栄えに合わせて、リュウズも円錐状に変更された。
「硬い」アルミベゼルと、絞られたブレスレット
回転ベゼルのプレートはアルミ製。しかし、硬くするために、単なる酸化処理ではなくシュウ酸陽極酸化処理なるものが施された。オメガ曰く、その硬さは500Hvとのこと。個人的な好みを言うと、セラミックスベゼルであればいっそう望ましかった。しかし、アルミとは言えどもきちんと硬くしてあるのは、いかにも今のオメガだ。少なくとも、昔のアルミベゼルのように、簡単には劣化しないだろう。
ブレスレットもユニークである。2021年の新しい「ムーンウォッチ」は、ケース側21mm、バックル側15mmという極端に絞ったブレスレットを持っていた。これは本作も同様で、新しいブレスレットはケース側21mm、バックル側16mm(前作は18mm)というかなりテーパーのかかったものとなった。また、バックルが短くなったため、細腕にもフィットしやすくなり、おそらくはデスクワークの邪魔にもなりにくいだろう。その代償として、バックルに内蔵されるエクステンションの数は減った。前作は6ポジションで最大9.6mm、対して新作は3ポジション、3.8mm。しかし、触った限りで言うと、普段使いであまり影響はなさそうだ。
謎の新素材、ブロンズゴールドとは何だ?
本作で注目したいのが、新しい合金の「ブロンズゴールド」である。オメガは毎年のように、変わった金素材を加えてきた。セドナゴールド(2012年)、カノープスゴールド(15年)、ムーンシャインゴールド(19年)、そして新しいブロンズゴールド(21年)である。ブロンズゴールドとそれ以外の大きな違いは、金の含有量にある。他のゴールドが75%の金を含有するのに対して、ブロンズゴールドは37.5%しかない。時計業界の表記に従うなら、18Kゴールドではなく、9Kゴールドだ。
その組成はユニークで、金の他に、約5%の銀、約5%のガリウム、約5%のパラジウム、そして約50%の銅を含有している。その色味は、ムーンシャインゴールドとセドナゴールドの間。普通のブロンズに比べて経年変化が穏やかで、緑青が吹きにくい、とオメガは説明する。
もっとも、この新素材にブロンズゴールドという名称を与えたものの、オメガはゴールドとは見なしていないフシがある。その証拠に、18Kゴールドモデルには必ず備わる18Kゴールド製のローターが省かれているのである。とはいえ、ブロンズゴールドの光り方はゴールドに極めて似ており、しかも価格は控えめなのだ。経年変化と、金ならではの質感を楽しみたい人にとって、ブロンズゴールドは楽しい選択肢となるに違いない。筆者はブロンズ素材にはあまり萌えないが、これはアリだと思う。
ようやく立ち位置を確立したシーマスター 300
優れた時計にもかかわらず、長らく難しい立ち位置にいたシーマスター 300。しかし本作では、よりレトロ調に振りつつも質感を高め、加えて実用性も改善することで、ついに立ち位置を確保したように思える。また、今のオメガらしい優れた装着感も、魅力のひとつと言える。唯一惜しいのが、このモデルでもなお日付表示がないこと。筆者のようなオタクは、日付がなければそれだけでご飯を三杯は食べられるが、普通の人はそうではないようだ。実用性を謳うなら、日付表示は必要だろう。
もっとも、オメガのことだからコレクションの拡張はちゃんと考えているはずだし、ムーンウォッチのマスター クロノメーター化は、今後複雑機構のマスター クロノメーター化に拍車をかけるだろう。というわけで、立ち位置を確立したシーマスター 300の今後には、一層注目していきたい。
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