オメガ 新旧スピードマスター 徹底解析

2021.06.24

ムーブメント変更点

Cal.1861

    ・緩急装置にフリースプラングテンプを採用
    ・一部輪列の歯型を変更
    ・香箱・香箱真の変更により長くて高トルクの主ゼンマイを搭載
    ・テンワの慣性モーメントを13mg・cm2から24mg・cm2に増大

Cal.1861

Photograph by Yu Mitamura
1968年の発表以来、スピードマスターのエンジンであり続けた手巻きのCal.861系。その基本設計は1942年のレマニアCHRO27にまでさかのぼる。カム式にもかかわらず、ブレーキレバーを備えるほか、高い振動数により、優れた携帯精度を誇った。オリジナルのCal.861は17石だが、後に1石を追加したCal.1861となった。設計自体は変わらないが、製造年によってメッキの種類が異なる。

Cal.3861

    ・脱進機をスイスレバー式からコーアクシャル式に変更
    ・耐震装置をニヴァガウス製のニヴァショックに変更
    ・軸受けなどの素材を非磁性のニヴァガウスに変更
    ・ヒゲゼンマイをニヴァロックスからシリコン製のSi14に変更

Cal.3861

Photograph by Yu Mitamura
Cal.1861をマスター クロノメーター化したのがCal.3861。クロノグラフ機構の構成はCal.1861にまったく同じ。しかし、主に軸が非磁性の素材になったほか、ヒゲゼンマイがシリコンになり、すべての輪列の歯型が変更された。また、極めて大きなテンワと、緩急針を持たないフリースプラングテンプを持つ。静態精度は0秒~+5秒以内。低振動にもかかわらず、携帯精度も優秀である。


14のポイントから見る新旧スピードマスター

1.ロゴ(ヘサライトモデル)

スピードマスター ロゴ

一見変わらない新旧のスピードマスター。しかし、ディテールには細かく手が入れられた。その一例がロゴ。新しいモデルはロゴ自体がわずかに大きくなったほか、「Speedmaster」と「PROFESSIONAL」のサイズも揃えられた。また、クロノグラフ秒針のカウンターウェイトも1964年のST 105.003を思わせる菱形状に変更された。クロノグラフ秒針のウェイトを見れば、新旧モデルの違いは明らかだ。

2.タキメーター

スピードマスター タキメーター

タキメーターの書体も変更された。ロゴ同様、わずかに大きくなっているのが分かる。なお、ベゼルの素材は、旧モデルに同じく酸化処理したアルミニウムを採用する。あえてセラミックス製のベゼルを選ばなかった理由は、強い衝撃を受けても破断しにくいため。新作のモデル名はムーンウォッチを強調しているものの、スピードマスターはあくまでもプロユースを前提とした構成を持っている。

3.ドット・オーバー90(DON)

スピードマスター ドット・オーバー90

オメガは愛好家向けの見せ所を作るのがうまい。スピードマスターフリーク向けのディテールが、いわゆる「ドット・オーバー 90(DON)」である。これは、タキメーターのドットが、90の横ではなく、斜め上にあるというもの。かつてのモデルに散見されたディテールを、オメガは21世紀の新作に復活させた。筆者はまったく興味を持たないが、歴史あるモデルならではのモディファイである。

4.ドット・ダイアゴナル・トゥ70

スピードマスター ドット・ダイアゴナル・トゥ70

ドット・オーバー 90同様に、70とドットの配置も見直された。オメガが言う「ドット・ダイアゴナル・ト ゥ 70」は、タキメーターの70の斜め下にドットがあるというもの。またオメガは公表していないが、65とドットの位置関係も、旧モデルとはわずかに異なる。いずれも、デザインモチーフとなった1964年のST 105.003に採用されたもの。それ以外の仕上げなどは、旧モデルに同じである。

5.ケースサイド(ヘサライトモデル)

スピードマスター ケースサイド

新旧スピードマスターの大きな違いは装着感にある。インナーケースを省き、ラグを短くした結果、取り回しはスピードマスターらしからぬほど良い。また裏蓋の変更により、厚みも14.3mmから13.58mmと薄くなった。オメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマン曰く、あえてヘサライトを残したのは「ショックを受けても破断しにくいため、またスピードマスターのアイコンであるため」とのこと。

6.インデックス

スピードマスター インデックス

新旧モデルはインデックスも異なる。旧モデルは文字盤の上に蓄光塗料を載せていたが、新作は文字盤を彫り込み、そこに蓄光塗料を流し込んでいる。プロダクトの責任者であるグレゴリー・キスリング曰く「インデックスを切削することにより、旧モデルに比べて夜光塗料の体積を約75%増やせた。その結果、蓄光塗料の明るさは2倍に、残光時間は3倍になった」とのこと。視認性は非常に良い。

7.カウンター

スピードマスター カウンター

新しいスピードマスターは往年のモデルよろしく、「段付き」の文字盤を採用する。文字盤の厚みが増した結果、省略されたディテールが復活した。そのひとつがサブダイアルのデザイン。視認性を高めるために深くされ、下地にはかつてのクロノグラフ同様に、同心円状の筋目模様が施された。またサブダイアルの針の袴が、針と同色から銀色に変更されている。これは抜きやすくするための配慮か。

8.ラグ&ブレスレット

スピードマスター ラグ&ブレスレット

着け心地が明らかに良くなった一因は新しいブレスレットにある。現行品としては珍しく、コマが約8.5mmから約5mmに短くなったほか、バックル側に向けて大きくテーパーがかけられた。分かりやすい高級感はないが、左右の遊びは適切で、剛性感も十分ある。また、Tシェイプの弓管がUシェイプに変更された結果、時計の全長はかなり短くなった。ヘサライトモデルはすべてサテン仕上げである。

9.プッシュボタン&リュウズ

スピードマスター プッシュボタン&リュウズ

デザインの見直しは、プッシュボタンとリュウズにも及ぶ。ケースの変更に伴い、プッシュボタンはわずかに薄く、一方でリュウズの直径は大きく、高さも増した。「直径の変更により少しだけスムーズになった」とオメガが説明する通り、リュウズの感触自体は改善された。ただし、巻きにくさは相変わらずだ。もっとも、これもまたスピードマスターならではの味わい、かもしれない。

10.バックル

スピードマスター バックル

スピードマスターの弱点が、巨大なバックルだった。大きく長いバックルは、重いヘッドを支えるには向いていたが、それを差し引いても大きすぎた。対して新作のバックルは、幅が20mmから15mmと細くなったほか、全長も短くなった。その一方で、剛性を持たせるためにプレート自体の厚みは増した。あえてバックルからエクステンションを省いたのは、絶対に壊れないことが条件だからである。

11.ロゴ(サファイアクリスタルモデル)

スピードマスター ロゴ

新旧サファイアクリスタルモデルの明らかな違いがロゴ。旧作のプリントから、新作ではアプライドに変更された。また、風防を固定するガスケットが、ライトグレー色のハイトレルからブラックに改められた。それにより旧作のサファイアクリスタルモデルで目立っていた文字盤外周の白っぽい映り込みが解消された。ヘサライトモデルは、旧作も風防を固定するテンションリングがブラックだった。

12.ケースサイド(サファイアクリスタルモデル)

スピードマスター ケースサイド

耐磁性のインナーケースを持たないサファイアクリスタルモデルは、ヘサライトモデルに比べてそもそもケースが薄かった。さらに風防と裏蓋の厚みを減らすことで、新作のケースの厚は13.18mmとなった。また、重さが138gしかないため、新作はヘサライトモデル並みの軽快な装着感を持つ。写真が示す通り、ケースの鏡面や筋目仕上げは旧作よりも向上した。オメガらしい細かい手の入れ方だ。

13.クロノグラフ秒針・分針

スピードマスター クロノグラフ秒針・分針

ヘサライト、サファイアクリスタルモデルに共通する改良点が針である。旧作はストレートだったが、新作では過去のスピードマスターに同じく、先端を大きく曲げたクロノグラフ秒針と分針に変更された。その結果、斜めから見た際の視認性は大きく改善された。上で記したガスケットの色の違いは、この写真でいっそう明らかである。質感の改善よりも、実用性を高めた改良が、本作の大きな魅力だ。

14.ケースバック

スピードマスター ケースバック

装着感への配慮は、裏蓋にも見て取れる。旧作はサファイアクリスタルの部分のみがフラットだったが、新作ではサファイアクリスタルとその外周の裏蓋も含めて平たく成形された。また、サファイアクリスタルと裏蓋は、できるだけ面一になるように成形されている。時計が軽くなり、裏蓋の接触面積が大きくなった結果、サファイアクリスタルモデルの着け心地は大きく改善された。


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