アワーサテライトによって独自の時刻表示を行うウルベルクの「UR-105」が、新モデル「UR-105 TTH」(TTHはTantalum Hull/タンタル ハルの略)の登場をもって最高潮の輝きを放ちながら終焉を迎えた。共同創設者のフェリックス・バウムガルトナーとマーティン・フレイらが発表時に語った言葉を合わせて紹介する。
2021年9月15日掲載記事
「UR-105」の有終の美を飾るタンタルのブルーグレー
なぜ、「UR-105」は終わりを迎えねばならないのか。
「ウルベルクでは、1997年のブランド創設初期の段階から根本的な決定を下していました。それは、どんな犠牲を払っても独立性を貫くことです。そのため、いかなる反対意見があったとしても成長を抑えることは重視してきました」。こう前置きをして説明するのは、マスターウォッチメーカー、フェリックス・バウムガルトナーだ。「自分自身に忠実であり続けるために、そしてウルベルクらしくあり続けるために、私たちは年産を150本以下としてきました。このためには不本意ながらも、新しい作品に命を吹き込むために、他のコレクションを"亡きものとする"必要が時にあるのです。そして選ばれたのが、UR-105でした」。
これを補足するように、アートディレクターのマーティン・フレイが続いた。「タンタルはとても特殊な素材です。その名はギリシャ神話に登場する「悪童」タンタロスに由来します。タンタルは貴重で、希少、そして加工が非常に難しい素材です。数年前にタンタル製のUR-110を採用しましたが、なんとか作り上げたものが最初で最後となっていました。チームから、今後はもう作品にタンタルは使わないでほしいと約束させられたからです。なぜならタンタルはCNC旋盤のビットを文字通り「喰らって」しまうのです。タンタルの攻撃を受けると、耐久年数が3分の1にまで落ちてしまう。ただ私は個人的に、魔法にかかったような光沢を放つタンタルのブルーグレーがとても好きでした」。
タンタルを採用するという冒険に挑むブランドは非常に少ないことを明言しておこう。この金属を過去に取り扱ったのは、筆者の知る限り、ウブロ、オーデマ・ピゲ、ジェラルド・ジェンタ、そして有名な「クロノメーター・ブルー」のF.P.ジュルヌくらいである。
タンタルの融解点は約3000℃と非常に高く、密度は約16.6g/cmである。つまりこの金属は耐腐食性が高く、摩耗にも強いということになる。このため、手術器具やインプラントなどで広く用いられている。
幸いなことに(ウルベルクではよくあることだが)、理性よりも欲望が勝ったようだ。UR-105の最終モデルには、わずか世界限定12本のみであるが、再びタンタルの採用が決まり、そしてコレクションの有終の美を飾ることになったのだ。
2021年5月に発表された、コレクションの最終モデルとなるUR-105 THHは、世界でわずか12本のみが製造される。「タンタルはプラチナに近い重さを持つ貴金属で、腕の上で美しい存在感を放ちます。機械的には悪夢のような金属ですが、比類のない輝きがある。私の知っている素材の中でも、最もウルベルクらしい金属のひとつでしょう。これは私たちの美的感覚に欠かせない色です」とフェリックス・バウムガルトナーは強調する。
タンタルから成るUR-105 TTHのケースは、深い溝が走った特徴的な八角形をし、機械を守る鎧の胸当てのような保護用のカバーを備えている。Hullとは船体という意味だ。UR-105 TTHのスライド式の"ベロ"を作動させると船体が開き、そのメカニズムが明らかになる。
搭載されるのは、自動巻きキャリバーUR 5.03である。これはUR-105のアイコニックなアワーサテライトによって時間表示を行う。各々3つのアワーインデックスを備えた4つのサテライトが、回転木馬のように60分をかけて順番に分目盛りの上を移動していくのだ。さらに、パワーリザーブ表示とスモールセコンドのデジタル表示が文字盤上の情報を補完する。セコンドマーカーはフォトリソグラフィー技術を使って製作され、可能な限り軽量化を図るために透かし彫りされている。各セコンドマーカーの重量は0.10g以下だ。
裏面には、ムーブメントの自動巻き上げシステムを制御するふたつのタービンが備えられている。セレクターを「FULL」にすると、ローターはどんな微細な動きもエネルギーに転換する。「STOP」を選ぶと巻き上げ機構は完全に停止し、リュウズによる手巻きモードに変わる。中間の「RED.」(REDUCED=減少の意味)に設定すると、過度の張力や摩耗を最小限に抑えるため、香箱の主ぜんまいの巻き過ぎを防ぐようにローターの巻き上げ効率が下がる。
唯一無二のメカニズムを備えたUR-105、その有終の美を飾るのがタンタルという選択はいかにもウルベルクらしい。
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