徹底討論!! フレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」とは?

2021.09.29

クラシカルなデザインとハイテクノロジーの調和

スリムライン モノリシック マニュファクチュー

フレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」
シリコン製一体型オシレーターを初搭載した限定モデル。一般的な機械式ムーブメントの約10倍の振動数により、理論上は高い等時性と耐磁性能を持つ。自動巻き(Cal.FC-810)。19石。28万8000振動/時。18KRG(直径40mm、厚さ11.38mm)。3気圧防水。世界限定81本。198万円(税込み)。

安藤「見た目の話をすると、あえて普通にしているのが良い。一般的には新商品を出すときには“新しさを主張するためには見た目も変えなくては”っていう意識があると思うけど」

篠田「新しい機構なのに、特別なものとして扱ってないのがかえって、ね」

安藤「日本人的な時計でもある。これ見よがしな主張はせず、中身は最新のものなんだけど、でもそれは自分だけが知っていればいい、という感じ。そういう意味では大人な選択です」

広田「地味だけどサラッとスゴいですよね。説明を受けなければ新技術が載っているって分からないほど。僕もこの割り切り、好きです」

安藤「そもそも、フレデリック・コンスタントはビジネスパーソンからも人気があるブランド。着けていればちゃんとしている人に見えますから。そのうえで、本作には機械式時計の課題を解決した最新の機構が載っていて、自己投影もできるモデルだと思います。新しいものにチャレンジしているんだっていう自分のメッセージを時計に重ねることができる。時代を切り開くマインドを持っている人に合っていますよね」


通も納得のフレデリック・コンスタントの魅力

モノリシック オシレーター

ローマンインデックスや文字盤中央のギヨシェなど、ディテールは実にクラシカル。その一方で、28万8000振動/時の超ハイビートにより、なめらかに動作する秒針が特徴的だ。

広田「そういえば、おふたりはフレデリック・コンスタントというブランド自体にどんなイメージを持っていますか?」

篠田「いい意味で、普通の良い時計だと思います。価格とかデザインコードとか、全てのものが理に適っている。ミドルレンジでクラシカルな時計ってフレデリック・コンスタントくらいだと思うし、しかもそれを昔からずっと続けているのも好印象です」

安藤「デザインが実にオーソドックスですよね。ローマンインデックス然り、カレのような角型ケースも作り続けているし、ハートビートに誇りをもっていて。とはいえ、クラシカルな見た目に反して機械・価格・売り方への考え方はすごく今どき。その点には、新興ブランドらしいイノベーションへの意識を感じます」

広田「そう、真面目な優等生的ですよね。地方の進学男子校の生徒って感じ(笑)。あと、パッケージングがうまくて、時計としてまとめたときに無理がない。創業者のスタース夫妻がオランダ出身なのが関係しているのか、スイスともドイツとも違う印象があります」

安藤「それからやっぱり、価格もポイント。アクセシブルながら、時計好きの素養のある人が求めている部分を抑えている。デザインも考えられていて、仕上げもしっかりしている。誰もが知っているブランドではないけど、見た時にキレイな時計をしているなって思ってもらえますよね」

篠田「ブレゲ針とかローマンインデックスとか、高見えするポイントが押さえられている」

安藤「そう。昔ながらの人たちが欲しいと思っているディテールは全部入っていて、しかもそれがデザインとして破綻してない。かつ、新テクノロジーの導入にも意欲的で、カラーダイアルなどの流行りも上手に採り入れていますし」

篠田「うるさ型もケチを付けづらいブランドです」


モノリシック オシレーターが機械式時計に与えるインパクトとは

モノリシック オシレーター,シリコン

シリコンパーツは成形後の調整が難しかったが、モノリシック オシレーターは左右の緩急パーツ(ウェイト)によって歩度調整が容易になった。また慣性が減ったことによりトルクの節約にもつながった。なお、オシレーターはウェイトを除いてシリコンパーツのみで構成されるため、注油が不要だ。

安藤「いろいろと話してみたけど、モノリシック オシレーターは今後どうなっていくんだろう? 僕としては、この機構は機械式時計の正統な進化だと思う。機構をシンプルにしてパーツの数を減らした方が故障も減るわけで。

ただ、この歴史的快挙もフォロワーがいなかったら“変わった機構”で終わっちゃうでしょ。クォーツ時計も発表当時は変わった時計だと思われたけど、同時代にいろんなブランドが独自に開発するようになって、一気に一般化した。そういう流れがあれば、次世代の時計として認知されていくと思うな」

篠田「この技術をオープンソース化したらいいけど。やっぱり、技術を共有しないと一般化はないので」

広田「精度と耐磁性能が認められたら、機械式時計を底上げする存在になるでしょう。僕は機械式時計をノスタルジックなモノだとは全然思ってなくて、クォーツ時計と比べてトルクが強いから太い針を動かせて老眼になっても使えるものと考えています。実用性は高いのに、一般的にはレトロなアイテムのように思われてしまっている機械式時計の突破口になるんじゃないかな」

Cal.FC810

トランスパレント仕様により、ケースバックからもムーブメントを見ることができる。シリアルナンバーは同作が技術革新を採用した記念すべきモデルであることを再認識させてくれる。

安藤「21世紀になっても自動車は空を飛んでないし、未来とか進化って実はそんなに派手なものじゃない。その点、フレデリック・コンスタントは常に現実と対峙しながら、1歩とまではいかずとも半歩は先を行っているよね。さぁ、この時計が時計の歴史の1ページになるか、1行で終わるか」

篠田「1行ウォッチばっかり持っている安藤さんが言うと重みがありますね(笑)」

安藤「この時計はすでに1行には絶対なっていて、2行、3行……となっていくのはこれから。もしかしたら10年後にはテンプって懐かしいね〜って言っているかもしれないし」

広田「個人的には、フレデリック・コンスタントがこのオシレーターをじゃんじゃん搭載して、機械式時計のひとつのジャンルに成長させて欲しい」

篠田「次の期待としては、他のモデルにどうやって搭載していくか、ってことですね。テンプと同等のサイズだからブランドの“トンマナ”(トーン&マナー)を壊さずにバリエーション展開できるでしょう」

広田「ともあれ、ニッチな存在になってしまった機械式時計の在り方を変える可能性を秘めた存在であることは確か。使ってみると有用性が分かってもらえると思う。今後に大いに期待です」


Contact info: フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988
スリムライン モノリシック マニュファクチュール 特設サイト

今回の鼎談メンバー

安藤夏樹[プレコグ・スタヂオ代表]

安藤夏樹

プレコグ・スタヂオ代表。編集者(時計関係多め)。東京903会主宰。ラグジュアリーマガジン『MOMENTUM』(日経BP発行)編集長を経て、現在は主に腕時計関連の記事を制作。独自性の強い視点を武器に、時計の真の価値を掘り下げる。また、書籍の出版も行っており、手掛けた書籍は『熊彫図鑑』『Colorful 黒田泰蔵』など。趣味は買い物。モットーは「散財王におれはなるっ‼︎」。

篠田哲生[時計ジャーナリスト]

篠田哲生

1975年生まれ。講談社『ホットドッグプレス』編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆している。また仕事の傍ら、時計学校「専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」のウォッチコース(キャリアスクールウォッチメーカーコース)に通い、時計の理論や構造、分解組み立ての技術なども学んでいる。近著に『教養としての腕時計選び』(光文社新書)がある。

広田雅将[クロノス日本版 編集長]

広田雅将

1974年、大阪府生まれ。2ちゃんねるのコテハンとして活躍した後、脱サラして時計ジャーナリストに転身。いつの間にやら業界ご意見番に。多くの時計専門誌に寄稿する傍ら、『クロノス日本版』では創刊2号から主筆を務める。2016年より編集長に就任。


【4K動画】シリコン製小型オシレーターで10倍の振動数を実現したフレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」

https://www.webchronos.net/features/65057/
ピム・コースラグが語る、フレデリック・コンスタントの未来

https://www.webchronos.net/features/17310/