時計のすべてをサステナブルに! スタートアップ・ウォッチブランド「ID Genève」に注目!!

時計を100%、サーキュラーに!

公式ウェブサイトで発売中の「サーキュラー ワン」。ケース径41mm。ケース厚9.65mm。50m防水。現地のオンライン価格は3500スイスフラン(税抜き約43万円)である。

 アイディー・ジュネーブが目指すのは「時計を100%、サーキュラーなアイテムにすること」。つまり、ストラップからケース、さらにムーブメントまで、すべてをサーキュラー、つまり循環型にすることを目指している。

 ブランドの記念すべきファーストモデル「CIRCULAR ONE(サーキュラー ワン)」は、シンプルな八角形ケースの3針モデルである。ステンレススティール製のケースには、スイス・ジュラ地方にある時計メーカーの廃棄物から回収した素材からスイス・スチールという会社が製造する通称「ジュラゴールド」、製品名「UGIPURE™4441」という、SUS316L系の100%リサイクル素材のステンレススティールを採用する。製造時に排出される二酸化炭素は、鉄鉱石などの天然原料から作るステンレススティールの約1/10で済むという。

 さらに注目すべきは、この時計が「分解、洗浄、再組み立て、注油を行い、新品同様の品質を保証する」ETA2824再生ムーブメントを搭載していることだ。

 また、循環型で「時計を使ってもらう」ために、「サーキュラーコイン」というブランド独自の仮想通貨を作って、この仮想通貨でムーブメントのメンテナンスやリペア、新しいストラップや新しい文字盤の提供が受けられる仕組みを作ろうとしている。販売した製品とその素材が自分たちのところに戻ってきて、再び循環するように。将来的には、顧客が不要になった製品を引き取って、そのムーブメントを整備してリユースすることも考えているようだ。

トップページの下方にある「どこが革新的か」のポイント解説。ステンレススティールケースだけでなく、ストラップや製品パッケージもリサイクル素材である。

 先日、アイディー・ジュネーブのファウンディングメンバーであり、ジャパンアンバサダーの高橋努(たかはし・つとむ)さんの紹介で、ブランドを率いるニコラ・フロイディガー氏にオンラインで直接インタビューすることができた。

「時計はもっとサステナブルになれる、と私は確信しています。クラウドファンディングでブランドを立ち上げる前、私はパネライのIDウォッチのプロジェクトを担った人物や、時計界の伝説的な経営者であるジャン-クロード・ビバー氏、ボーム&メルシエで『ボーム』ブランド(注:現在はボーム&メルシエに統合)を立ち上げてマネジメントした人など、時計業界のさまざまな人たちに会って、サーキュラーな時計ブランドの可能性についてアドバイスを求めました。彼らはみな、応援すると言ってくれました」

 フロイディガー氏たちアイディー・ジュネーブが目指すもの。それは、自分たちのアイディー・ジュネーブの時計だけでなく、時計全体が100%サーキュラーなもの、つまり、時計という製品が「循環する」ことが当たり前になることだ。

「まずはステンレススティールケースから。私たちアイディー・ジュネーブばかりでなく、あらゆる時計ブランドのステンレススティールケースが、リサイクルされたものになることを目指して活動していきます」

 次の計画は、自社製品に使うリサイクル・ステンレススティール素材を、ソーラーエネルギーを使ったプロセスで製造された、よりサステナブルな素材を使ったものにすること。

ケース素材の原料は、スイスの時計ファクトリーから出た切削クズである。

 アイディー・ジュネーブとその製品コンセプトは世界でも認められ始めている。2021年10月21日にスイス・ジュネーブで開催された「Luxury Innovation Summit」において、「Luxury Innovation Awards」の時計・ジュエリー・アクセサリー部門で最高賞を獲得した。

 フロイディガー氏は、スイス国内に加えてアメリカ、さらに日本など、世界での製品展開も考えているという。そのため、2022年には来日する予定だ。

 そもそも、機械式時計はどんな工業製品よりもサステナブルなアイテムだ。基本構造は変わらないので、メンテナンスをきちんと施してあり、消耗パーツが問題なく調達できれば、リペアして長く使える。大切に扱えば、世代を超え、世紀を超えて愛用できる。

 最近はメーカーの保証期間もかつての1~2年間から、さらに長い5年間や8年間がデファクトになりつつある。オリスのように10年間保証を付けるところも現れた。新作時計のサステナビリティは、かつてないほど高い。

 そして、アイディー・ジュネーブの時計は、そのはるか先を行っている。この先進性を、このコラムをお読みのあなたはどう評価するだろうか?

 普通の時計が、どこまでサステナブルになれるのか? アイディー・ジュネーブの挑戦は、まだ始まったばかりだ。



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