今やさまざまなメーカーが手掛けるようになったゴルフウォッチ。このジャンルを開拓したのは、2007年創業のヤーマン&ストゥービだった。17年にミスズの傘下に収まった同社は、プロダクトの質を高め、より魅力的なゴルフウォッチを完成させた。
右モデルの色違い。ケースが小さいためショック・ガードは省かれたが、ゴルフ・カウンター自体の耐衝撃性は非常に高い。使えるゴルフウォッチの最右翼だ。自動巻き(Cal.A10-2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径38mm)。50m防水。129万8000円(税込み)。
(中)クイーン オブ ゴルフ QG2
ヤーマン&ストゥービの特徴であるゴルフ・カウンターを搭載した女性用モデル。ケースサイドのボタンを使うことで、18ホールまでのスコアをカウントできる。自動巻き(Cal.A10-2)。25石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径38mm)。50m防水。129万8000円(税込み)。
(右)ロイヤル オープン RC1
あえて複雑機構を省いたベーシックモデル。しかしスイングのインパクトを吸収する独自機構の「ショック・ガード」を搭載している。自動巻き(Cal.A10-2)。25石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約42時間。SS( 直径44mm、厚さ11.6mm)。100m防水。57万2000円(税込み)。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
唯一無二の機械式ゴルフウォッチ
ヤーマン&ストゥービの起こりは、起業家ウルス・ヤーマンの個人的な経験に始まる。ゴルフが下手なのを自認する彼は、プレイ中に、ヤードをメートルに変換したり、ストローク数を数えることが、集中力を削ぐと感じていた。彼は、コミュニケーション戦略の講義で、たまたま時計師のパスカル・ストゥービと出会い、共にゴルフ場で使える、ゴルフ専用ウォッチメーカーを立ち上げようと決めた。ふたりはジュラ渓谷で適切なサプライヤーを見つけ、ホールごとのストローク、総ストローク、そしてプレイしたホール数をカウントできる、唯一無二の機械式ゴルフウォッチを完成させた。2007年のことである。
ヤーマン&ストゥービのユニークさは、操作が簡単だったことに加えて、ゴルフのインパクトに耐えられるよう、耐衝撃性を高めた点にあった。ムーブメントを収めたムーブメントホルダーをラバーで支えることで、インパクト時のショックを劇的に減らしたのである。それ以前に存在していたゴルフウォッチと異なり、ヤーマン&ストゥービは、ゴルフシーンで実際に使える時計を目指したのである。「ゴルフ発祥の地」であるセント・アンドリュース・リンクスの公式時計になったのも当然だった。
もっとも、その道のりは決して平坦ではなかった。体調の悪化により、共同創業者のウルス・ヤーマンが辞任すると、会社はスイスのエクセレンス・ホールディングスに買収された。同社は時計宝飾店を運営する大グループだったが、やがて時計メーカーの経営に興味を失ってしまった。加えてサプライヤーから部品が供給されなくなったため、時計製造そのものが難しくなったのである。
2016年にゴルフがオリンピックの正式種目になったことを記念したのが、本作である。ロイヤル オープンをベースに、16年のオリンピック開催国だったブラジルの色を文字盤にあしらう。自動巻き(Cal.A10-2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径44mm、厚さ11.6mm)。100m防水。57万2000円(税込み)。
しかし、17年にハンダウォッチワールドを展開するミスズがヤーマン&ストゥービを買収。時計の設計・製造をハイゼックに委託することで、再び新作をリリースするようになったのである。
ハイゼックのサポートで作られる新しいコレクションは、ゴルフウォッチとしての個性はそのままに、質を大きく高めた点に特徴がある。実際、製造コストは上がったが、ミスズはあえて戦略的な価格に留めたと説明する。
ゴルフをする人にとって、今のヤーマン&ストゥービは魅力的な選択肢となるはずだ。ストロークとホール数をカウントできるモジュールは、設計から十数年を経て、機械的には極めて安定しているし、面の歪みが小さいケースや、発色の良い文字盤などは、いかにも高級時計らしい仕上がりを持つ。
時計の世界に機械式ゴルフウォッチというジャンルを切り開いたヤーマン&ストゥービ。ゴルファーの証しともいうべきブランドである。