時計バブルの煽りを受けて、ニッチなメーカーにも注目が集まるようになった。先導するのはF.P.ジュルヌだ。聞くところによると、ほとんどのモデルが納品まで数年待ちだという。人気があるのは知っていたが、これほどとは予想外だった。フランソワ-ポール・ジュルヌに今後の対応を聞いてみた。
[クロノス日本版 2022年3月号掲載記事]
私たちの時計はそもそも万人向けのものではない
1957年、フランス生まれ。現代を代表する最も成功した独立時計師のひとり。パリの時計学校を卒業後、77年に時計の修復を始める。82年、初のトゥールビヨン付き懐中時計を製作。89年、ヴィアネイ・ハルターなどと共にTHA 社を創業。96年、オリジナルムーブメントの開発に着手し、99年には初のコレクションを発表する。その独創的かつ天才的な時計作りから、しばしば「21世紀のブレゲ」と例えられる。
「今のところ生産数を増やす予定はない。仮に製作本数を倍に増やすことができたとしても、残念ながら当面、長い間納品を待っている顧客がいる状況は変わらないと思っている。そもそも私たちの時計は、すべての人々に好まれる、万人受けするような時計ではない。その上で、もし今日多くの人々がF.P.ジュルヌを選ぶとするならば、理由があってのことだろう。それは、今後のF.P.ジュルヌの時計に対する将来性や期待感を持っている人々が世界に数多くいるから、ということなのかもしれない」
F.P.ジュルヌは一貫して、生産本数を抑えてきた。需要増にもかかわらず、生産本数が増えるとは考えにくい。
ところで、F.P.ジュルヌに資本参加したシャネルとの関係はどうなのか?
「シャネルは2018年から当社の20%の株主となったが、協業はしていない。当初から協業を目的とした話は一切ないが、良い関係性を保っていると思うよ」
改めて聞きたかったのが、いわゆるプレオウンドの時計の提供である。F.P.ジュルヌは他社に先駆けて、いわゆる認定中古時計を販売するようになった。
「私たちのパトリモアというサービスは、新しいコレクターに、今ブティックでは購入できない、製作が中止された、あるいは特別な限定モデルを楽しんでもらうためのサポートを提供するものだ。パトリモアサービスでは、単なる中古時計の提供はしていない。あくまでも現在、新品をブティックで購入できないモデルに限っている。そういったモデルを工房でメンテナンスし、新品で購入した時と同様に3年間の保証を付けて、顧客に対して提案している」
万事において抜かりのないF.P.ジュルヌ。視認性についても、同社はいち早く、その改善に取り組んできた。大きな文字盤と表示は、今やF.P.ジュルヌの美点のひとつ、と言って良い。
「残念ながらコレクターが何を選び、何を好むかはよく分からない。というのも、人々の好みは常に変化するからだ。そもそも視認性を重視した上での複雑時計製作は大変に困難だ。そのために多くの手間と時間を費やす必要がある。しかし、私が過去に発表したモデルは機構と視認性どちらにも重きを置いて製作している。なぜなら時計は時刻を読めることが絶対条件だからだ」
操作性と際立った視認性を両立した永久カレンダー。月表示以外の操作は3ポジションのリュウズで可能。月表示のみ1時位置のラグ下にあるレバーで操作可能。カレンダーは瞬時に切り替わる。プラチナ製ケースのブティック限定モデル。シルバー製文字盤にブルーギヨシェを施し、18Kホワイトゴールド製インデックスを配する。自動巻き(Cal.1300.3)。37石。2万1600振動/ 時。パワーリザーブ約5日間。Pt( 直径42mm、厚さ10.8mm)。1115万4000円(税込み)。
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