ムーブメント開発における新たな偉業は「L.U.C フル ストライク トゥールビヨン」だろう。これもベースは16年初出のL.U.C フル ストライクだが、3番車以降の輪列が全面的に手直しされ、極端に限られたスペースの中にキャリッジを押し込むことに成功している。
これを可能にしたのは、L.U.C フル ストライク独特なリピーター機構のコンパクトさだろう。通常のリピーター機構は大きな面積を必要とするが、フル ストライク系では機構をレイヤー状に配置することで、コンパクト化に成功している。予めゼンマイを巻き上げておくことができるソヌリ方式の専用香箱を採用したことも、コンパクト化を成し遂げた大きな理由だろう。ちなみに全巻きの状態では、最もトルクを必要とする12時59分を、12回分鳴らすことが可能となっている。
2016年初出のミニッツリピーターに、ワンミニッツトゥールビヨンを併載。ブリッジはサファイアクリスタル製。手巻き(Cal.L.U.C 08.02-L)。61石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18Kエシカルローズゴールド(直径42.5mm、厚さ12.58mm)。世界限定20本。予価4776万2000円(税込み)。
3部作の中で最も希少なモデルが、世界限定5本の「L.U.C フル ストライク サファイア」だ。ムーブメントやケースの基本構成は16年のL.U.C フル ストライクに準ずるが、本作ではケース、リュウズ、ダイアルなどが全てサファイアクリスタル製となっている。ケース加工に要するのは約190時間(通常の金属製だと約6〜7時間)。リュウズやダイアルまで含めると、約215時間もの工程が費やされるという。なお、複雑なケース加工を担当するのも、モノブロック成形のサファイアクリスタル/ゴングを共同開発したサプライヤーと同一のようだ。
3部作に共通するサファイアクリスタル/ゴングの特徴は、澄み渡った硬質な音色だろう。残念ながら3部作の音色はオンラインでしか聴いていないが、16年のL.U.C フル ストライクから想像する限り、特性に大きな変化はなさそうだ。ガラスのゴングを鳴らすため、通常のリピーターよりもハンマーを強く作動させる必要があるが、そのため音量も約65dB(時64.7dB、分65.8dB/データはL.U.C フル ストライク取材時)と現行リピーターでは最大級だ。
何よりケース内で音を反響させる必要がないため、音色が濁るようなこともない。ケース内で音を反響させる通常のリピーターではケース素材が音色に大きな影響を与えるが、モノブロック成形のサファイアクリスタル/ゴングでは、そうした影響も皆無に近い(実際には変わるのだが、人間の耳には聴き分けられない程度とのこと)。
もうひとつの利点は、音色の永続性だ。通常のメタル製ゴングならば、OHのために分解するだけで音が変わる(そのため近年では、出荷時の音色を記録しておく例も増えている)が、モノブロックのサファイアクリスタル/ゴングならば、そもそも分解の必要がないのだ。風防部分を磨き上げるのは至難だが、よく見てみると、ゴング部分はポリッシュが施されていない梨地のままとなっていることに気付く。このため個体ごとの均質さについても、メタル製ゴングの特性を上回る。
2016年初出のL.U.C フル ストライクをそのまま、オールサファイアクリスタル製のケースに改めた新作。手巻き(Cal.L.U.C 08.01-L)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。サファイアクリスタル(直径42.5mm、厚さ11.55mm)。世界限定5本。予価5656万2000円(税込み)。
ショパールでは3部作の開発時に、ジュネーブ工科大学(HEPIA)の応用音響学研究所や、弦楽奏者のカピュソン兄弟に協力を仰いだが、そうして生み出された芳醇な音色は、類い希な均質さと永続性を持つに至った。L.U.C コレクションの誕生から25年を経てショパールは、超複雑機構の中で最も均質さを保つことが難しいチャイミングウォッチの分野でも、革新的な偉業を成し遂げたのだ。
ショパール「L.U.C コレクション」
チャイミングウォッチ3部作 公式ムービー
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