ローマン・ゴティエはなぜ、多くの時計愛好家を魅了するのか? その理由について「プロダクト」と「プロデュース」の両面から考察していく。前半パートではコンテンポラリーなデザインを特徴とする「コンティニュアム」コレクションより、新たに追加されたプラチナエディションを例に見ていこう。
コンティニュアムのヘリテージコレクションとして登場した、新作のプラチナエディション。フリーダムコレクションに属するチタンエディションとは異なり、メッキ処理がされていない18KWGダイアルとローマンインデックスが与えられている。ケースの全長は49.5mm。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Pt(直径41mm、厚さ9.55mm)。50m防水。1287万円(税込み)。
野島翼、髙井智世:取材・文 Text by Tsubasa Nojima, Tomoyo Takai
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
“プレタポルテ” コンティニュアムの誕生
躍進を続けるマイクロメゾン、ローマン・ゴティエ。同社は2021年に新コレクションの「コンティニュアム」を発表した。ベーシックラインとも言うべきこのモデルは、ムーブメントを露出させないミニマルなダイアルにスポーティーなフォルムという、従来のラインナップからは異色とも思える特徴を与えられた。同社はコンティニュアムをプレタポルテ(既製服)と位置付けてこそいるが、しかしその作り込みは変わらず非凡だ。それは最新作のプラチナエディションを見れば一目瞭然である。
まず目を引くのは、ユニークなレイアウトのダイアルだ。時分針をセンターから12時方向へわずかにオフセットすることであえて崩したバランスを、7時位置のスモールセコンドが絶妙に均衡させている。このデザインの狙いは、インデックスの長さと太さに変化をつけ、コンティニュアムの名が意味する「連続性」を表現することだ。閉じたイメージの円ではなく、スモールセコンドに見られるような長く伸びた線を主体としてダイアルを構成し、このコンセプトを体現した。
白く輝くプラチナ製のケースには、6つのファセットを備えた、幾何学的なベゼルがセットされる。これは丸みをつけたベゼルに後からカットを施し、出来上がった面にポリッシュを加え、最後に残った部分にサテン仕上げを入れるという手法で作られたものだ。これにより、サテンとポリッシュの異なる仕上げが並存し、全体に立体感をもたらしている。なお同様のファセットをケースバックにも施すことで、ケース全体に統一感を与えた。ラバーストラップは、ラグと一体化する専用デザイン。ケースサイドから尾錠まで、自然につながるラインを構築することで、こちらもコレクションのコンセプトである連続性を生んでいる。
ムーブメントはもちろん、創業者ローマン・ゴティエによって設計された自社製だ。フィリップ・デュフォーの愛弟子として、ジュウ渓谷の伝統的な手仕上げを学んだ彼の技術と見識は、今作にも遺憾なく発揮されている。水平に並ぶフィンガーブリッジは、故郷に伝わる時計作りの伝統を現代的に解釈したものだ。エッジやルビー周りには深い面取りが施され、縁取りのヘアラインと外端の段差が奥行き感を生んでいる。その隙間からは、リング状のアームを持つ大型の歯車がのぞき、その先の地板にはフロスト仕上げが与えられた。
機構面で最も注目すべきポイントは、レバーの代わりにスネイルカムを採用した秒針停止機構だろう。リュウズを引くとスネイルカムが回転し、隣接するテンワに接触し、これを止める。審美性に優れることは言うまでもないが、これには、始動時にテンワへ勢いを与えるという実用上のメリットもある。
常に伝統を進化させてきたローマン・ゴティエ。コンティニュアムは、ジュウ渓谷の伝統が現代に連続していることを示す証しと言っても過言ではないだろう。
ブランド黎明期から支え続ける名店が語る
“何故ローマン・ゴティエは支持されるのか?”
昨今のマイクロメゾンブームも相まって、今、最も熱いブランドのひとつとなったローマン・ゴティエ。なぜ、ローマン・ゴティエの時計は支持を集めるのだろうか。その核となるのはエンジニアであり、MBAホルダーでもあるゴティエ自身の人柄とブランディング力だ。正規取り扱い店という立場からブランドを支え続けるカミネの有識者の言葉から、改めてその魅力を分析する。
2005年創業のローマン・ゴティエ。デビュー作「プレステージ HM」は理想の完成度を求めるため生産を少量に留め、価格設定は約1000万円と強気だった。この姿勢は「プレステージ HMS」や「ロジカル・ワン」「インサイト・マイクロローター」シリーズが続いても変わることなく、年産60本程度に保たれてきた。それゆえ同社は、時計愛好家からニッチメーカーとして捉えられてきたのである。
だからこそ、新たな価格帯や生産数を謳った新コレクション「コンティニュアム」の発表は、一層の驚きをもたらしたのだ。ローマン・ゴティエは従来のクォリティを担保しながら、既製服を意味する “プレタポルテ” ラインを年産100本ほど追加すると明言している。新工場建設も計画され、職人チームも現在の25人から40人程度まで拡充する予定だ。快進撃といえるこの展開を有識者はどう見ているのか。
11年、ローマン・ゴティエの正規取り扱い店として最も早く名乗りを上げたのが神戸の時計店カミネだ。知名度の低いブランド草創期から交流を持ち、その成長を間近に見てきたトアロード本店店長の谷口誠は、その理由をこう語る。
「決め手となったのは質の高さです。面取りをはじめ、手仕上げはいかにもフィリップ・デュフォーの教えに忠実なものでした。しかし、ただ模倣するだけではなく、それ以上に独自の加工精度が光っていた。加えて感じたのが、人としての凄みです。ゴティエ自身がエンジニアのため、ムーブメントの摩擦係数やCADの精度など、大ブランドのプロダクトマネージャーとするような話が直接できました。金属加工の知識も高く、最新の工作機械を入れた工房からも将来性が感じ取れました」
時計作りへの情熱のみならず、それを成すための綿密な経営計画にもビジネスの安心感が得られたと谷口は補足する。ローマン・ゴティエはMBAホルダーでもある。同時期には個性豊かなブランドが相次ぎ誕生しているが、信頼感において他を凌ぐものがあったのだろう。
この信頼性がブランド成長の礎となったことは明らかだ。ローマン・ゴティエはスペシャルオーダー(パーソナライズ)を強みとする。ゴティエ自らオーナーとやり取りし、その希望に最大限応えることを重視してきたのだ。「仲介をする中で、他のブランドであれば断る難題にも柔軟に応じる姿勢を何度も見てきました。次第に金額を問わずハイレベルな注文を楽しむ方が増えていきました」。自分の理想形をブランド創業者自身が存分に叶えてくれたとなれば、その1本に愛着が湧かないわけがない。オーナーが時計を手放さないため、昨今の投機ブームに左右されない強さがある。加えてゴティエはその納品式に可能な限り立ち会い、来日の度に愛好家たちと親睦を深めてきた。“作り手の顔” が見えるブランディングもまた、愛好家たちがローマン・ゴティエを支持する理由だろう。
興味深いことに近年、ローマン・ゴティエを最初の高級時計に選ぶ30代の若いオーナーが増えているという。同価格帯であれば他の名門ブランドも視野に入れられるにもかかわらず、だ。彼らと同世代であるクロノメトリー店の石黒和志はこう考察する。
「マイクロメゾンブームのきっかけにはSNSがありました。新たなコミュニティーを通して、腕時計に興味を持つ人が増えたのです。彼らの多くがアートに精通し、機能美を好みます。その感性にローマン・ゴティエという特別な存在が響いたのでしょう。さらに日常使いが可能なコンティニュアムは、その点も彼らに強く訴求しています」
ブランド創設以来、着実に成長を遂げてきたローマン・ゴティエ。さらにコンティニュアムを発表し、着々と次なるビジョンを実現しているのだ。
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