「フィジタル」という用語を好んで使うのが、ロジェ・デュブイCEOのニコラ・アンドレアッタだ。「フィジカル」と「デジタル」から成るこの造語は、今後のロジェ・デュブイを見るうえで、重要なポイントと言えそうだ。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
私たちの顧客は文化的に似た“トライブ”だ
ロジェ・デュブイCEO。1973年、イタリア生まれ。ミラノ・カトリック大学を卒業後、高級時計ブランドの経営に参画。2001年以降はコンサルティングを行うほか、Timeo SAの経営を引き継ぎ、自身の時計ブランドも立ち上げた。13年にティファニーの副社長兼ゼネラルマネージャーに就任し、「CT60」や「イースト ウェスト」などを開発した。18年から現職。
「デジタルの世界は進化して、もはや逆らえない段階に来たし、成熟の段階にあると言っていい。今や私たちは、デジタルとフィジカルのふたつの世界に生きているわけだ。これは10年前には、まったく予想できなかった新しい世界であり、文化的な革命だ。では、このふたつをどうつないでいくか。それがフィジタルだ」。彼は話を続ける。
「デジタルの世界に生きている人たちは、知識を持ち、より多くを求めている。私たちはその方向性をサポートするしかない。消費の在り方が大きく変わってしまったのだ。そして消費に伴う経験は、オンラインに始まり、オフラインへと向かうだろう。多くのブランドがふたつの世界を別物と考えているが、このふたつは連続性のある旅になるだろう」
彼がそう言うには理由がある。
「製品というのは極めて重要だ。しかし、顧客のアイデンティティーを示すためのものとなった」。つまりはどういうことか?
「ロジェ・デュブイというのは、時計を提供するのはもちろんだが、私たちの世界や情熱を “トライブ” に提供するエモーショナルプロバイダーでもある」。カスタマーではなく、“トライブ”。共通の興味・関心やライフスタイルでまとまった集団を意味する用語を、まさかロジェ・デュブイのCEOから聞くとは思わなかった。つまりロジェ・デュブイは、顧客をより細分化して把握しようとしているわけだ。
「“トライブ”とは同じ価値観でつながった人たちを意味する。そこに魅了された人々の集いは、ブランドへの集いではないから、文化的な側面で似てくるだろう」。重要なのは、“トライブ”に対してブランドが何を提供できるかだと彼は語る。
「ロジェ・デュブイの場合は、喜びや自由になるだろう。私たちが提供するのは、時計だけではないのだ。そしてロジェ・デュブイの時計は “トライブ” に所属する証しでもある」。とはいえ、きっちり時計の話でまとめるのは、やはりロジェ・デュブイだ。
「新作のエクスカリバー モノバランシエは、テンプがフリースプラングになり、スポーツシーンに向くようになった。私たちは、常々クォリティを上げたいと考えているし、プロダクトを100%ジュネーブ・シール付きにしたい。2年から3年で実現可能だろう。そして数年以内に、革命的なプロダクトを発表する予定だ」
スポーツウォッチとしての性格を前面に打ち出した2022年の新作。緩急針を持たないフリースプラングテンプは慣性モーメントが2倍に増え、携帯精度が改善された。脱進機もシリコン製になり、パワーリザーブも延びた。自動巻き(Cal.RD720SQ)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ12.7mm)。10気圧防水。836万円(税込み)。
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