日本の時計ビジネスは本当に大丈夫か? 見えない、日本の時計業界の危機

購入の動機が……

 だが、この好景気は凄まじい。時計専門店や百貨店の時計売り場では、超高額モデルと人気モデルの在庫はすでに払底し、入荷予定ははるか先。人気の時計ブランドの定番モデルは現時点で、約3年から5年後に納品となるほどのバックオーダーを抱えているという。つまり3年先から5年先まで、半ば「好景気が保証されている」のだ。

©Yasuhito Shibuya
2022年3月30日から4月5日にかけて開催された「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」。ジュネーブに集まった時計業界関係者にとっても、人気No.1の時計ブランドは、スイスでも日本でもやはりロレックスである(『ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022』でのロレックスのブース)。

 こうした時計ブランドにとって、当面悪いことはひとつもない。ただ、販売の当事者である専門店や百貨店の関係者は売上絶好調で満面の笑みかというと、そうではない。前にお伝えした迷惑な「マラソン」は、来店を予約制にすることで一段落した。だが、時計が本当に好きな関係者の中では「本当にこれでいいのか?」という自問自答が続いている。

 この悩みを象徴するのが、複数の関係者から直接聞いた「私たちは自動販売機だ」という自嘲だ。黙っていても超高額モデルから自動的に売れていく。かえって製品の説明をすると、迷惑な顔をされることもあるという。

 そして関係者がいちばん危惧していること。それは新規顧客の多くが「投機目的の購入」ではないか、ということだ。

「売上絶好調はうれしい限りですが、このまま好景気が続くとは思えません。来年2023年はたぶん大丈夫でしょう。でも、どこかで終わりが来る。それも意外に早く来るのでは。その心配が頭から離れません。バックオーダーだって、商品が来なければ、いつ取り消されるかもわからないし……」


「時計ブランドとその魅力」は理解されているのか!?

 この心配は考え過ぎの「杞憂」だろうか? 多くの人々の所得が実質的にマイナスになる中で、貧富の差が劇的に拡大している日本経済の現状を考えれば、そう断言する自信は筆者にはない。

 時計ブランドは超高額モデルと同時に、良心的な価格で魅力的な時計を続々と発表している。日本以外の国ではこうした時計が飛ぶように売れている。ところが日本市場は明らかに一部の富裕層による、しかもごく一部の超高額モデルの購入に依存している。時計業界のみなさんは、これでいいのだろうか?

©Yasuhito Shibuya
ヴァン クリーフ&アーペルの天文クロック「オートマタ プラネタリウム」。腕時計ではないが、筆者が2022年開催の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」で最も心惹かれた時計のひとつ。こうしたクリエーションができるのも、好景気だからではあるが……。

 さらにFHの「消費者意識調査」にはもうひとつ、サンプル数が少ないという問題はあるが、この「心配」を裏付ける気になるデータがある。それは20代、30代の時計購入者の「次に購入したい腕時計」のブランド名だ。

 次に購入したい腕時計の1位はもちろん「ロレックス」。それ以外に名前が上がるのは2、3の有名人気ブランド。それ以外は「わからない」「特にない」がほとんど。

 これは「時計の奥深い魅力」が、特に若い世代には伝わっていないからだ。筆者にはそうとしか思えない。果たしてこのままで良いのか? そうは思えない。

「そんなことは杞憂に過ぎない」という方は、ぜひ筆者に話を聞かせてほしい。


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