総評
今年の時計界は特に面白い1年だった。まるで、厳しい冬を乗り越え春を迎えた草花のように、各社個性を開花させていた印象。コロナ禍が明けつつあるためか、ワールドタイムやGMT、デュアルタイムなど旅をテーマにした時計が特に際立っていたように思う。
まだまだスポーツウォッチが人気の大多数ではあるが、各社時計のサイズを小さくしたり、クラシックに回帰したモデルを発表したりと、徐々に潮目がドレス寄りに変わりつつあるように感じた。
個人的1位としたパルミジャーニ・フルリエの「トンダ PF GMT ラトラパンテ」は、まさにそんな今年を象徴する1本ではないだろうか。
コラボレーションウォッチも話題をさらった。オメガとスウォッチのコラボレーションモデル「ムーンスウォッチ」は社会現象までになり、マリオカートとタグ・ホイヤーのコラボや、スタジオジブリ映画「紅の豚」とブライトリングのコラボなど、日本のアニメと高級時計ブランドのコラボなど新しい動きも見られた。
これらコラボレーションは時計界に限ったものではなく、アパレル業界にも多く見られることから、今後さらに発展していく可能性が高いと考える。
今後の発展性で考えると、サステナブルウォッチも見逃せないキーワードだ。各社さまざまなアプローチでサステナブルを実施しているが、ダイヤモンドやゴールドの流通に透明性を持たせたブライトリングの「スーパークロノマット オートマチック 38 オリジン」はベンチマークのひとつになるかもしれない。
今はまだ、消費者心理的には時計検討時の要素に入らないかもしれないが、5〜10年後には「サステナブルじゃない時計を買うのはちょっとなぁ…」と言う感情になっているかもしれない。この辺りは今後ラグジュアリーブランドの使命となっていくだろう。
また経済的影響も大きい1年だった。インフレ、円安が毎日のようにニュースで取り沙汰され、時計の定価もホップ・ステップ・ジャンプのように跳ね上がり、我々消費者にとってはなかなか辛いものがある。
一方で、ロレックスをはじめとする超人気ブランドの一部のモデルの二次市場価格は今年初めから右肩下がりを続けており、今後の価格感にも注目したい(ロレックスの認定中古も始まったのでなおさら興味深い)。
時計はその人の個性を表すと言うが、筆者は世界をめぐる船長という職業柄、やはりダイバーズウォッチやワールドタイム/GMTに目がないということが証明されたベスト5になった(しかも気が付けば全てノンデイト)。
来年はどんな時計が発表されるのか、今からとても楽しみである。
選者のプロフィール
腕時計のある人生 RY
1990年生まれ。本業は外国船の“船長”。初めて購入した機械式時計をきっかけに腕時計の魅力に取り憑かれる。腕時計好きの人口を増やすため、2019年にブログ「腕時計のある人生」を開設。20年にはYouTube「腕時計のある人生Channel」を開設した。webChronosへのインプレッション記事の寄稿やForza Stayleの人気動画シリーズ「ロック福田の腕時計魂」への出演なども行う。
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