【インタビュー】ボヴェ1822 オーナー「パスカル・ラフィ」

2023.01.27

政府による水際措置が緩和されたことで、ブランドCEOクラスの大物が数多く来日した2022年10月。ボヴェ1822を率いるパスカル・ラフィもそのひとりだ。まずは久しぶりの来日を果たしたラフィに、その目的を尋ねた。

橋本美花:写真 Photograph by Mika Hashimoto
細田雄人(本誌):取材・文 Edited & Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


時計作りとは美の製造であり、情熱が不可欠です

パスカル・ラフィ

パスカル・ラフィ
ボヴェ1822オーナー。1963年生まれ。2001年に休眠状態だったボヴェを買収し、オーナーとなる。06年にエボーシュメーカーだった旧ディミエ1738(現ボヴェ1822)を傘下に収めるなど、買収によって垂直統合型のグループ作りに着手。わずか数年にしてブランドを世界有数の高級時計専門マニュファクチュールに育てた。同社のアイコンであるライティングスロープケースは、彼のアイデアによるものだ。

「ディストリビューターと会う用事があって来日しました。ボヴェは21年に日本の販路を広げたので、その関係ですね」

 ボヴェがヨシダで取り扱いを開始し、好調だという話は編集部でもよく耳にする。さぞかし販売数は増えただろう。しかし、少量生産をうたってきたボヴェは、日本での需要拡大に対応できるのだろうか。ただでさえ現在は空前のマイクロメゾンブームだが、需要が増えた分、年産本数を増やすようなビジョンはあるのか?

「確かに日本での問い合わせは増えています。しかし、我々は3年前に生産数自体を年2600本から800本まで減らし、取引先も絞りました。というのも、オーダーメイドモデルの受注量が増えたのです。これらに対応しながら、時計のクォリティを維持するためには仕方のないことです。我々は200年間にわたって美の追求を行ってきました。時計製造ではなく、美を製造しているのです。生産数を増やすことは念頭にありません。今後は、オーダーメイドの販売に力を入れていく予定です。日本のコレクターはレベルが高いですから、我々のタイムピースが美であることをよく理解してくれています」

 販売本数の少なさや、作り手の顔が見えるというプレミアム性に魅力を感じた愛好家が、マイクロメゾンや独立時計師のプロダクトを買い支えたことで、現在のマイクロメゾンブームが発生したことを考えると、実に理に適った経営方針だろう。それをコロナ禍前の2019年に打ち出した点に、ラフィの先見性が光る。休眠状態だったボヴェを買い取り、わずか数年でマニュファクチュール化を果たしたのは伊達ではない。しかし、そんな冷静な経営者としての視線を持ちながら、彼を突き動かすのはいつでも時計作りに対する熱いパッションだ。

「私が最も重要としているのはいつだって情熱を持って時計を作れるか、ということだけです。情熱こそがハイクォリティの秘訣なんです。シャトーで時計を製造しているという事実を評価する人もいるでしょう。でもシャトーは私にとっては単なる工房でしかありません。本当に重要なのはそこで作られるタイムピースだけなんです」

 インタビューの中でラフィが再三口にした〝パッション〞という単語。これこそが、ボヴェ1822と、そしてパスカル・ラフィという人物の本質にほかならない。

リサイタル26 ブレインストーム チャプター2

ボヴェ1822「リサイタル26 ブレインストーム チャプター2」
ブランドのアイコンであるライティングスロープケースと大きく湾曲したサファイアクリスタル風防によって、立体感ある文字盤表現を可能にした代表作。時分表示を担う12時位置のインダイアルはブルー水晶製だ。手巻き(Cal.17DM06-DT)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約5日間。18KRG(直径46mm)。30m防水。4840万円(税込み)。



Contact info: ボヴェ1822 ジャパン Tel.03-6264-5665


少量生産時計はここを見ろ!ポイント別マイクロメゾン指南書(前編)

https://www.webchronos.net/features/83374/
【動画】サファイアクリスタルケースの造形美とロービートの音を4K動画で/ボヴェ「リサイタル 26 ブレインストーム チャプターワン」

https://www.webchronos.net/features/49300/
ボヴェのオーナーであるパスカル・ラフィとボヴェのストーリー

https://www.webchronos.net/features/30098/