現在、スイスの時計メーカーで成功しているほとんどは、大資本の傘下に入っているか、もしくは独立系であっても、ロレックスのようにそれ自体の規模が大きい企業ばかりだ。それは言い換えると、ムーブメントを自社でまかなえるマニュファクチュールや、垂直統合的に時計製造が行えるグループが増えているということにほかならない。そんな時計メーカーの在り方が集約していく現代で、水平分業が当たり前だったかつてのスイス時計産業の王道をビジネスモデルに取り入れるのが、レイモンド・ウェイルだ。加えて、同社はスイス時計業界にとって今や珍しい家族経営企業でもある。その利点をCEOのエリー・ベルンハイムに直接聞いてみた。
細田雄人(本誌):取材・文 Edited & Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
我々にとって最も重要なのはサプライヤーとの関係性
1982年生まれ。ブランド創業者、レイモンド・ウェイルの孫である彼は、ローザンヌホテルスクールを卒業後、他社での社会経験を経て、2006年にレイモンド・ウェイルに入社する。その後、時計製作、マーケティング、事業経営を一通りこなしたのち、父であるオリヴィエ・ベルンハイムから14年にCEOを継いだ。音楽一家であるウェイル家の血を引く彼は、ピアノとチェロの演奏が趣味という一面も持つ
「家族経営のメリットは、やはり“速さ”です。経営や製品に関することをすぐに決め、すぐに行動に移すことができます」
3代目として父からブランドを引き継いだベルンハイムは、いつかブランドを継ぐことになるだろうと、幼いころから意識して生きていたという。最終的にブランドを運営する立場に就く人間が、その前提から逆算して必要な経験を外から積んでいけるのも家族経営のメリットだ。
比較的若いブランドとはいえ、1976年創業のレイモンド・ウェイルは、まもなく50周年を迎える。その間にはクォーツショックにはじまり、ETA2000年、および2020年問題やリーマンショックといった、大きな荒波にも数多くぶつかってきたはずだが、どのようにして独立性を保ちながら乗り越えてきたのか。
「こういった問題を乗り越えていくためにはサプライヤーとの関係性が重要です。お互いに良い時、悪い時というのが必ずありますから、それをすべてオープンに話して信頼を得てきました。セリタとは今でも月に数回打ち合わせをしています。そのためでしょう、ブランドによってはパンデミックによってムーブメントの供給量が減り、減産せざるを得ないという話を聞きますが、レイモンド・ウェイルでは今まで通りの数を入荷できています。また現在、機械式ムーブメントは結果としてすべてセリタ製になっていますが、ETAと縁が切れたわけでもありません。良好な関係が続いており、クォーツはすべてETA製です」
サプライヤーとのつながりでコロナ禍を乗り越えたベルンハイム。その経営手腕は確かだ。そんな“生まれながらの経営者”である彼に、自身のブランディングで影響を受けたメーカーがあるか聞いてみた。
「パテック フィリップです。なんたって同じジュネーブ、同じ家族経営の時計メーカーですから。いつも気にしていました」
フラッグシップコレクションであるフリーランサーに加わったGMT+ワールドタイムモデル。これまでフリーランサーケースは42mm径だったが、アジア市場に合わせ、40.5mm径へとダウンサイズされている。自動巻き(Cal.RW3230)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS×ブロンズ(直径40.5 mm、厚さ9.7mm)。100m防水。46万2000円(税込み)。
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