悪くない着用感と十分な巻き上げ効率
着用感は悪くないが、ストラップが頑丈すぎる印象だ。大きすぎないダイアル径と細身のラグが組み合わさって、周長約18cmの筆者の手首では飛び出しが無い。厚さも気になりにくく、袖への干渉の少なさも合格点だ。フォールディングバックルは薄手で着用感が良く、操作感も良いため、本作の満足感の向上に一役買っている。
一方、ストラップ芯のコシが強すぎて手首が挟まれる感覚がある。ストラップの厚さはケース厚さと対比してバランスが良いものの、もう少し柔らかな芯に替えてもらえることを期待したい。ラグ幅20mmと選択肢が多いサイズであり自分で交換してしまっても良いが、表面の本ワニ革の質感が悪くないのでそれも惜しい。
実用上、気になるのは着用による自動巻きの巻き上がり量とパワーリザーブの長さだろう。30分ほどの歩行で10~15時間分だけ巻き上がった。また、あまり歩かないデスクワークでは巻き上がり量と消費量がわずかにマイナスといった具合であった。個人差があるため断言できないが、筆者の運用であれば1時間ほど積極的に歩行すれば、その日のパワーリザーブは賄えるように思う。以上から、日常生活において十分な巻き上げ効率であると感じた。
パワーリザーブの長さは約50時間。20万円前後の価格帯では、標準的か少し物足りないレベルとなる。ウィークデイに着用すると仮定して、金曜の夜に時計を外すと日曜の夜に止まってしまう計算となるので、再度着用する月曜の朝までに一度巻き足してやる必要がある。
ロングパワーリザーブを備えるモデルが多い中で本作を評価するとこのようなネガティブな表現を使ってしまいがちだが、本作は従来のミドルクラスの中で標準的な性能を備えており、減点対象にはならないだろう。
好みから外れていたはずが「欲しい」と思うほどの魅力
シンプルでコンパクトなモデルを好み、白蝶貝ダイアルを避けていた筆者にとっては、本作は好みから離れたところにあった。そのため、これまでの経験では本作のようなモデルは購入候補の対象外としがちであった。にもかかわらず、本作はインプレッションをきっかけに「欲しい!」と購入を検討するほど魅力的であった。
テンプ部のスケルトン仕様を採用しなかったことは、デザインバランスのうえで良い選択だったと筆者は感じた。採用していれば左右対称のバランスが崩れただろうし、この美しいダイアルの面積が減るためだ。自動巻き(Cal.F7M65)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.8mm)。5気圧防水。オリエントスター公式オンラインストア限定モデル。21万4500円(税込み)。
ムーンフェイズに興味が無くても、本作の優れたデザインが気に入って購入する例もあるだろう。ムーンフェイズをきっかけに、腕時計における複雑機構の歴史に興味を持つかもしれないし、美麗なダイアル表現に注目するようになるかもしれない。その観点から、本作はコンプリケーションや工芸品的な美しい腕時計への入口となりうる。
本作の仕上がりであれば、実物を見て魅力に気付く人も多いはずだ。しかし筆者は本作を店舗で見たことが無かった。それもそのはずで、本作はオリエントスター公式オンラインストア限定モデルであるらしい。
惜しい! 惜しすぎる! これほどまでに質感の高いダイアルなのだから、各都市の旗艦店舗で販売して実物を見てもらえる環境を作った方が良いのではないか。それがファン獲得にもつながるだろう。オリエントさん、御一考のほどよろしくお願いいたします。
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