ワールドタイム機能は文化に根付いたものなのではないか?
ワールドタイム機能や、それに類するモデルをラインナップするブランドは多い。それほど人気なのだろうかと筆者は疑問を持っていたが、今回のインプレッションを通じて、その疑問が晴れたように思う。
日本では、他の時間帯に移動するには航空機か船舶に乗る必要がある。半径30kmが主な移動範囲の筆者にとって、これは大冒険である。よってワールドタイマー機能は縁遠い存在となりがちだ。
本作のような腕時計を買い求める層が、世界を相手にする敏腕ビジネスマンや、長期クルージングを楽しむ富裕層であるという背景はあるだろう。ただ、もう一方で、他の時間帯を表示する機能に対する身近さがヨーロッパ諸国やアメリカにはあるのだと思う。そのことは、ダイアル中央の世界地図において、異なる時間帯が陸続きで並んでいる様子から見えてくる。
ヨーロッパなら異なる時間帯の切り替わり近傍に訪れることもあるだろうし、アメリカのように国土が広ければ一国の中で時間帯が異なる。そのような環境ならば時間帯を細かく切り替える必要性も生じる。
「そんな大げさな」と思われるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。大阪生まれの筆者にとって太陽は山から昇って海に沈むし、川下は西である。しかし地域によっては、そうとは限らない。日常と深く結びついた「当たり前」の感覚は、それを認識することが難しい。
本作のようなワールドタイム機能も同様で、筆者には違和感のあるものであったし、筆者同様に必要性を感じない方もいるかもしれない。しかし、それでもラインナップされるのだ。それはすなわち、スイスを始めとしたヨーロッパ諸国やアメリカ等では、ワールドタイム機能が文化に根付いており、潜在的なニーズがあることを示しているのではないだろうか?
審美性と実用性を備えた1本
そのような気付きを伴いながらダイアルを眺める。中央に描かれた世界地図は緻密で凹凸に富んだ贅沢な仕立てであり、ツールウォッチに分類するのは忍びない。グレード5チタン製のこの地図は、レーザー加工によって描き出されたもので、その色彩もレーザー加工によって発色させている。詳細は語られていないが焼け色をコントロールしているのだろう。
ダイアルのセンター部分以外も良い仕上がりだ。アクアテラ コレクションのアイコンとなっているチークパターン(高級木材のチークで作られた船舶の甲板をイメージしたもの)が用いられ、日付窓も柔らかな曲線を描き、チークパターンと呼応している。深みがあり、わずかに彩度を落としたブルーの色調は腕元にシックな印象を加えてくれる。
ケースの造形も良い。有機的で盛り上がり、ポリッシュが施されたラグ部と、サテン仕上げで切り立ったケースサイドのコントラストは本作の見どころのひとつだ。
搭載するキャリバー8938はパワーリザーブ約60時間で、1万5000ガウスの高い耐磁性能を備え、着用感の高いパッケージングにまとめられている。実用性は申し分なく、オメガは本作を単なるコレクションアイテムに留めておくつもりはないらしい。
手に取ってみれば、本作を必要とする人々の生活が見えてくるかも
オメガが本作のようなワールドタイム機能を、惰性的にラインナップしているわけではないことはダイアルを見ればよく分かる。美麗で手の込んだダイアルを載せただけではなく、デザインには統一感があり、また、そのデザインと実用性の融合がよく考えられている。
日本に住んでいれば、本作の必要性を感じる人は少ないかもしれない。しかし、それを必要とする文化圏のことを思いながら本作を眺めれば、見えてくるものも変わってくるはずだ。筆者はそのようなことを考えながら、ロンドンでは今頃ティータイムであろうか、などと思いを巡らせるのであった。
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